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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第2章 進展
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 16 映画の前に

 一度家に帰ったオレは、制服から私服に着替えて兄と一緒に家を出る。

 今日の試験は午前中に終わったのでお腹はすいているが、久しぶりに兄弟で外食をすることになったからだ。オレは野球部が忙しくてバイトをする時間がなく、親からもらうお小遣いでやりくりしているが、大学生の兄は学業とバンド活動とバイトをこなしている。


 やはり3歳年が離れているだけあって、また大学生ということもあり、ものの見方、考え方が大人だなと思う。高校2年、若干17歳のオレとは大違いだ。

 だけどふざけて冗談を言ったり、はしゃいだりしている姿は子供そのもの。

 そのギャップがまた兄の魅力となり、人気の源なのかもしれない。

 誰に対しても飾らない、自然体の兄だからこそ心に沁みる歌が作れるのかもしれないと思う。

 そんな自慢の兄は、オレにとっては何でも話せる友達のようでもあるが、頼りになる存在だ。

 



 昼食の間中、オレは兄の質問攻めにあった。

 オレが密かにお慕い申し上げている彼女、クラスでもひときわ眩しい光を放っている涼風すずかぜ愛優あゆについて、どんなひとなのか、どこが好きなのかとかいろいろと。


「好きっていうか、憧れてるっていう方がしっくりくるかもしれないな」


 そう。そんなにじっくりと話したことはないけれど、他の女子と話している様子とかを見ていると、大体の性格は解る。

 よく男子の前でだけ可愛く振る舞ってみたり、親切さ、気の利くところをアピールしている女子はいるけれど、そういうのは見てて解る。

 それが内側から溢れ出ているものなのか、作り物なのか。

 男女の恋愛とかそういうのはあまり詳しくはないが、ひとの性格を見極めることぐらいできる。


 やはり野球で相手の心情を察してプレイする場面が多いからか、自然と身についてきた。

 それと、自分で言うのもなんだが、もしかしたら兄の音楽に触れているうちに、感受性が豊かになってきたのかもしれない。


 そんなオレから見て、彼女は見た目だけでなく心も美しいんだということを、恥ずかしげもなく語ってしまった。


「じゃあライバルも多そうだな」


「そうなんだよなぁ~」


 そう。クラスの男子の憧れの的。

 ただ、「いいよなぁ~」って言っているだけのヤツもいれば、本気モードのヤツもいそうだし。


「お前、折角のチャンスを2度も棒に振っちゃったんだよなぁ」


 ううっ。耳の痛いことを遠慮なく仰る。

 あの雨の日、帰り道での相合い傘。

 試験中の下校時、一緒に帰った時もそう。


 結局「ああ」「おう」ぐらいしか話せなかったんだ。


「オレだってもっといろんな話をしたかったさ。だけどオレ、なんか緊張しちゃって上手く言葉がでてこなかったんだ」


「なんか解るよ~」


 兄は「ウケる~」とでも言いたげな様子で笑っている。



 食事も終わり、いよいよ映画鑑賞の時間だ。

 それでもオレ達の話は映画館への道程、上映時間までの間中尽きることなく続く。


 もう間もなく上映だというときに、オレは何気なく聞いてみた。


「兄貴は好きなひととかいないの?」


 すると兄は真っ直ぐ前方を向いたまま、表情も変えずにひと言発した。


「いるよ」


「え」


 オレが声にならない声を漏らしたところで映画が始まった。

 兄のサラリとした返答に少し驚いたが、無表情にスクリーンを見つめる兄から、オレも視線を大型スクリーンへと移した。



お読み下さりありがとうございました。


次話「17 嬉しい偶然」もよろしくお願いします!

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