149 とある雨の帰り道
ああ、腹減ったな。
それにしてもこんな蒸し暑い日に部活だなんて、勘弁してほしいよな。
しかも高校3年生で成長期のオレはただでさえお腹がすくのに、あんな激しい練習のあと、夕飯までもつわけがない。
でも、夏の甲子園の地区予選突破のために頑張らないと。
高校3年の夏の甲子園。
今まで歩んできた野球人生の集大成。
決意も新たに頑張ってはいるのだが。
やっぱ運動量が半端ないから、お腹がすくのは当たり前。
ああ、腹減ったな。お腹の皮と背中の皮がくっつきそうだ。
だけど空模様も怪しくなってきたことだし、今から一人でファストフード店に入るのもなんだし、夕飯までのつなぎに何か買って帰って家で食べようかな。
そんなことを考えながら歩いていると、何か冷たいものが頬にかかる。
なんだ?
急に降り出した雨に慌てたが、母親の言うことを素直に聞いておいて正解だ。
今朝はあんなに晴れていたのに、出かけるとき母に「天気予報で夕方から大雨って言ってたから持って行きなさい」と無理矢理押しつけられるように手渡された傘を開いた。
新緑に降りかかる雨音は、緑の爽やかなにおいを連れてくる。
公園の横を通り過ぎて角を曲がると、オレの心臓が飛び跳ねた。
遠目にもわかるクラスメイト、涼風愛優を見つけて、心臓がダンスを始めた。
てか、あれ?
前にもこんなことが……。
なんて考えていると、軒下にいる彼女が大きく手を振っている。
「空くーん! こっちこっち」
え?
何かあったのかと、オレは急いで駆け寄った。
「ちょうどよかった」
「何が?」
「急に雨が降り出したもんだから」
「うん」
「傘も持ってないし」
「雨宿り?」
「そうそう。そんで去年みたいに空くん通らないかな~、なんて思ってたら本当に会えるなんてね!」
彼女はきゃっきゃと笑っている。
そういうことか。
「傘……一緒に入っていくか?」
オレは目線を下にそらし、照れ隠しに頬を指でかきながらそう言った。
てか、言ってしまった。
去年の同じシチュエーションでは、愛優ちゃんが「一緒に入ろ」と言ってくれたが、今日はオレから言った。
1年前では考えられないほど愛優ちゃんとは仲良くなれたけど、それでも相合い傘とかマジ照れる。
すると愛優ちゃんはにこにこしながらオレの隣にスッとやってきて、「やったー」と嬉しそうにしていらっしゃる。
「送っていくよ」
「ありがと」
彼女の笑顔が眩しい。
灰色の空まで明るくしてくれるようだ。
オレの気持ちはあのころのまま。
いや、彼女のことを知るにつれて、仲良くなるにつれて、彼女への想いは増してゆく。
いつか想いを告げよう。
ロマンチックに飾られた言葉でなくていい。
不器用なオレらしく、心のままに伝えよう。
今日が雨でよかった。
ぐうと鳴るお腹の音が雨音にかき消されて、彼女には伝わらないだろうから。
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