147 何がどうしてこうなった(3)
一瞬にして後ろからやって来た小林さんが、オレと愛優ちゃんの間に入り2、3歩歩いたところで立ち止まる。何事かと歩みを止めて振り返ると、小林さんはオレと愛優ちゃんを交互に見て、淡々と言葉を放つ。
「2人は付き合ってるんですか?」
唐突な質問で言葉に詰まるオレ。
「え、あ、それは……」
オレが愛優ちゃんのことをお慕い申し上げているのは明白で。
でも愛優ちゃんの気持ちは不明で。
仲良くはしているけれど、それはあくまでも友人として……かもしれないし。
「それってあなたに関係ある?」
愛優ちゃんが聞くと、小林さんがキッパリと言う。
「仲が良さそうなので、もしやと思って確認しただけです」
「そんなこと聞いてどうするの?」
「付き合っていないなら、私にもチャンスはあるかなって」
オレは飲んでもいない水を漫画のように口から吹き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれる?」
焦ってオレが言うと、キョトンとした愛優ちゃんの横で悟と倉井がニヤニヤしているのが目に入る。
「それとも好きな人がいるんですか?」
あ、あのね。そんなにずけずけと聞く?
「それ、私も聞きたーい」
愛優ちゃんまで何言ってるんだ。
「俺も聞きたーい」
いやいや悟、何言ってるんだ。
「同じく聞きたいです」
倉井まで。
おいおい、みんなやめてくれよ。
何故に聞きたいんだ。
てか、みんな人にだけ言わせて自分はだんまりなんてなしだよ。
そもそもオレはみんなの前でなんて、絶対に言うつもりはないけどね。
だから敢えて言おう。
「はいはい。じゃ、1人ずつ言いますか? はい、まずは悟から」
「そ、それはご勘弁」
悟、いいぞ。
「じゃあ倉井」
「そもそも好きな人はいませんから」
おお、倉井。そうだったのか。
では非常に聞きづらいけれど順番だから。
「愛優ちゃ」
オレの声にかぶせるように満面の笑みとともに放たれた言葉。
「私は言わなーい」
愛優ちゃんの好きな人は聞きたいような、聞きたくないような。
でもほぼ計画通りにみんなが否定してくれてよかった。
「ではオレも」
そんなこと言える訳がない。
言うならふたりきりで、ちゃんと愛優ちゃんの目を見て……言えるかな。
オレは小林さんの方を向いてゆっくり語りかけた。
「本当に好きな人がいるなら、みんなの前で軽々しく話題にするもんじゃないと思うんだ。その人への想いが真剣なら特にね」
「……」
「さっき小林さんは甲子園でのオレを見て憧れていた、同じ高校に入りたくて勉強を頑張ったって言ってくれたよね。でも、憧れと恋は違うと思うんだ。もっと身近に小林さんを想ってくれる人がいると思うよ。さっきからあの木の陰から、ずっとキミを見ている彼みたいにね」
「あ」
小林さんが彼の方を見ると、恥ずかしそうに木の陰の彼は下を向いた。
「か、彼は……お、幼馴染みで。全然……そんなんじゃ……」
小林さんは顔を真っ赤にしながら言う。
「もしかして彼にヤキモチ焼かせたかったんじゃ?」
愛優ちゃんの言葉に、耳まで赤く染めた小林さん。
「そ、そんなんじゃありません! か、彼が勝手についてきただけで」
その姿を見てオレは確信した。
「はいはい。解ったから」
「私は本当に夏野先輩に憧れているんです」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
「それなら!」
「でもそれは恋じゃないよ、きっと。小林さんの態度を見ていたら解る。あんまり彼を困らせちゃダメだよ」
「……はい」
「じゃあね」
「し、失礼します!」
そう言うと小林さんはそそくさと去って行った。それを追いかけるように木の陰から走って行く彼。
オレ達は微笑ましく見送った。
「若いっていーなー」
悟の言葉にうなずくも、よく考えると。
「てか、2歳しか違わねぇだろ」
何の気なしに言うと倉井が真面目に答える。
「高校生の2歳は大違いではないでしょうか」
「入学したてと卒業間近だものね」
「確かに」
と大笑い……ではなく、妙にしんみりしたりして。
オレ達は3年生。つまり卒業の年。
確かに。
お読み下さりありがとうございました。
次話もよろしくお願いします!




