143 スピーチの後
「ということです。最後まで静かに聴いて下さってありがとうございました!」
オレが深々とお辞儀をすると大きな拍手が巻き起こる。オレは笑顔とともに舞台袖に入った。
ふう、とひと息つくと、キャプテンがとんできてオレに抱きつき「よかった。空、よかったよ」と褒めてくれる。
「ありがとう。次はキャプテンの番だな。頑張れよ」
オレはキャプテンの肩をポンと叩き、その場を離れた。
スピーチを聴きに来ると言っていた愛優ちゃん、倉井、悟がそれぞれ体育館の後ろの方で立っている姿が壇上から見えたので、声をかけに行く。
「おつかれー」
悟の労いの言葉に「おう」と答えそのまま進んで行く。
「素晴らしかったです」
眼鏡の端を左手の中指でクイッと上げながら倉井が言う。
「ありがとう」
わざと少しかしこまって答え、そのまま進んで立ち止まる。
「よかったよー」
わわ、愛優ちゃんありがとう。
「サンキュ」
顔の前で小さな拍手をずっとしてくれている愛優ちゃんに笑顔で答える。
そのポーズ、なんて可愛いんだ!
キャプテンの部活紹介兼新入生勧誘のスピーチを聴き、軽く労いの言葉と挨拶を済ませオレは帰ることにした。
帰ろうかと愛優ちゃんの方を見ると、満面の笑みで「これからカフェでスピーチのお疲れさま会をしましょうか」と誘われて。
オレは嬉しくて心の中で小さくガッツポーズをしながら一緒に歩いていると、いつの間にか悟と倉井の姿が。
「空ー。俺たちもカフェに付き合うぜ」
「スピーチのお疲れさま会ということであれば、行かねばなりません」
眼鏡の端を左手の中指でクイッと上げながら倉井が言う。
「そんな大層なものでは……」
なんて言いながら4人でカフェに行くことに。
「初めての甲子園の時のお話。足へのピッチャー返しの下り、よかった!」
愛優ちゃんが褒めてくれると、悟が続ける。
「空があの状況でどう考えていたのかがよく解ったよ」
「あれは、思いもしない出来事があっても、逃げずに困難に立ち向かって前に進めば、道は開けると伝えたかったんだ」
「空くんらしい素直な気持ちを言葉にすることで、新入生にもよく伝わったと思います。素晴らしかったです」
「ありがとう」
こんなに褒めてくれて少し照れくさかったけど、とてもありがたかった。
みんなの友情に感謝。
久しぶりに4人でわいわい楽しいひととき。またこうやってたわいない話をしたいなと思った。
みんなと別れて家に帰ると、両親が拍手で迎えて「お疲れさま」と労いの言葉をかけてくれる。
気にかけていてくれたことが嬉しい。
とそこへ兄貴が登場。
「お、空。お帰りー」
「ただいま」
「今日のスピーチは素晴らしかったし、誇らしかった」
「ありがとう」
いやあ、今日はみんなが褒めてくれる。良い日だな……って。
あれ?
「堂々としてて良かった。自分の経験談を交えながらサラッとアドバイスするなんて、すごいよ」
「てことは、兄貴! 聴きに来てたの!?」
「ねー」
ふふふと目を細めて母が父に言う……ということは。
「ま、まさか3人で!?」
楽しそうに笑う父、母、兄を見ながら妙な恥ずかしさを憶えたオレであった。
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