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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第9章 心機一転
139/148

139 スピーチの原稿(1)

 オレは今、非常に冷静である。

 なぜって? 入学式でのスピーチ原稿が、思いのほかはかどっているからだ。

 下書きをノートに書こうと机に向かっているわけだが、文才があるからか、素晴らしい言葉がスラスラと浮かび、面白いほどに筆が進んでいる。

 

 部活終わりに主将から告げられ、みんなからの激励を受け引き受けたはいいが、今までの入学式ではそんなスピーチの時間なんてなかったから、前回を参考に、とかできないし。

 なんとか自力で頑張るしかない。


 もう少し日数があれば最高の原稿が書けるのに、そのスピーチが明日となると、流石のオレでも少々時間が少ない。


 しかしそこはオレだ。開いたノートに思いつくまま書き殴り、あっという間に完成。

 と、頭の中でのイメージは完璧である。

 だからオレは今、とても落ち着いている。


 そう。オレはとても冷静……んなわけない。

 非常に焦っている。


 開いたノートは真っ白だし、皆が感心するような言葉のひとつも浮かばない。

 野球ではイメージトレーニングも必要だから、試合前は自分の投球や打撃する姿を頭に浮かべ、良い状態で試合を運べるように、脳内でイメージを作り上げていく。

 だからスピーチの原稿作りのイメージトレーニングをしてみたわけだが。


 時間だけが進んで、全く何も浮かばない。


 まず出だしの言葉から思いつかない。


 あー、ダメだと短い髪の毛を両手でくしゃくしゃとした。

 気分転換をしようと立ち上がり、大きく深呼吸をし、また机に向かう。

 じっとノートとにらめっこ。


 やっぱダメだ。


 時計の針だけが無情に進んでいく。


 焦りと苛立ちが交互にやって来ていたときに、スマホの着信音が鳴った。画面を見てオレは驚きと嬉しさから、さっきまでの焦りよりも早い鼓動で心臓が動いているのに気づく。


 でもなるべく冷静を装って。


「もしもし」


『あ、空くん?』


「おう」


『今ちょっといい?』


「あ、うん」


『明日、入学式で在校生の代表としてスピーチするんですって?』


「そうなんだよー。って、愛優あゆちゃん知ってるの?」


『うん。もうみんな知ってると思うよ』


「え、なんだって!?」


『江崎くんが連絡網で回してたから』


さとしのやつ、何やってんだよ、もう!」


『ふふふ。いいじゃない。誇らしいことだから、私も嬉しいわ』


 そ、そんな風に愛優あゆちゃんから言われると照れくさいけど、俄然頑張れる。

 だけどここは平静を装って。


「おう」


 短く答える。


『じゃ、明日頑張ってね』


「ああ、ありがとう」


 愛優あゆちゃんから頑張ってと言われたのは嬉しいけど、皆が知ってるなんて。

 これはさとしからの無言のプレッシャーを感じるよ。


 そんなことを思っていると、またスマホから着信音が流れてきた。



お読み下さりありがとうございました。


次話「140 スピーチの原稿(2)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 139 スピーチの原稿(1)読みました。 最初のさくさく進むシーンはイメージだったのですね! イメトレ的なものですね! 実際には作業が進まず困っているというところが何だかとてもほっこりで…
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