133 とあるホワイトデーに
バレンタインに愛優ちゃんからチョコをもらって、「ホワイトデー、楽しみにしてるね」「あんま期待せずに待っててくれー」と会話して。オレは今ここにいる。
そう、ホワイトデーのお返しを愛優ちゃんに渡すべく、彼女の家を訪れたわけだが、ちゃんと渡せたし、そろそろ帰ろうかと思った時に、「さ、入って」だなんて。
思いもしないお言葉に、オレの心臓は飛び跳ねた。
いや、だが、しかし。
あ、そうですか~。じゃ、遠慮なくお邪魔しま~す。
なんて言えるはずもなく。
「もう遅いから……」
と口ごもるオレ。
「どうしたの~? 空くん。遠慮しないで」
と、満面の笑みを浮かべ愛優ちゃんに言われると、思わず言ってしまった。
「はい」
なんだ? はいって。緊張のあまり、敬語になってしまう。
「ふふふ。素直でよろしい」
オレは愛優ちゃんに促されるまま、彼女の家の玄関へ向かい、彼女に続いて中に入った。
「ささ、どうぞ」
玄関で靴を脱いでスリッパを履くと、どこからか現れた彼女の“お母さま”に導かれ、リビングへと向かう。そしてリビングに入ると、食卓には豪華な料理が所狭しと並べられているのが目に入った。食事時に来てしまったのだろうか。迷惑だったかな。いや、でもまだ17時過ぎだ。夕食には早いだろうに。などと考えていると、聞き覚えのある声が耳に入った。
「よっ」
その声の主を見て、オレは驚きを隠せない。
「え、なんで!?」
「“センバツ頑張ってね会”だそうだよ」
「ええー、そんな申し訳ない。てか、なんで兄貴がいるんだよ?」
「せっかくだから、海さんもお誘いしたの。皆で応援したくって」
あ、愛優ちゃん。なんとお優しい。
「空くんにホワイトデーのお返しいただきました~」
そう言って、さっきオレが手渡した紙袋を高々と上げ、愛優ちゃんは嬉しそうに皆に見せびらかしている。オレは耳まで真っ赤になっているだろうと推測できるぐらいには、恥ずかしいぞ。
「ヒューヒュー」
兄貴の揶揄いに、ますます照れてしまう。
「まあまあ、それぐらいにして。空くんが困っているでしょう?」
“お母さま”の鶴の一声に助けられたオレ。
その後は、“お母さま”の手料理に舌鼓を打ち、和気あいあいと『センバツ頑張ってね会』を楽しんだ。“お父さま”も、穏やかな感じのいい人で、話も弾んであっという間に時間は過ぎた。
皆にこれだけ応援してもらって、期待されているんだ。
数日後に控えたセンバツ。頑張ろうと心に誓う。
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