132 とあるホワイトデー
センバツまであと数日に迫ったとある日。
今日はホワイトデー。
もちろん毎日練習はあるし、愛優ちゃんを誘って食事なんてできるはずもない。第一、もしそんなことになったら、食事中、練習のことが気になって、せっかくの愛優ちゃんとの時間を楽しむことができないだろう。
今は目の前の目標に向かって精進するのみ!
とは言うものの。
愛優ちゃんからバレンタインデーにチョコをもらった時、「ホワイトデー、楽しみにしてるね」とのお言葉を賜り、オレは「あんま期待せずに待っててくれー」と冗談めかして言ったが、お返しはキチンとせねばならぬ。しかし巷ではホワイトデーは倍返しなどという恐ろしい噂が囁かれている。
元の値段なんて解んないのに、倍って言われても。
そんなの気持ちの問題だと思うんだけどな。オレならそう思うけど。
卒業式の日、悟の誘いを断ってホワイトデーのお返しを買いに行ったオレは、何を買えばいいのかも解らず、あれやこれやと見て回り、最終的には自分が食べたいものを買ったわけだけど。だって、他人にプレゼントするからには、自分が美味しそうだと思わないものを選ぶわけないだろ。喜んでくれると嬉しいな。
今日の部活は16時まで。急いで帰って、一応汗を流して17時に愛優ちゃんの家に。前もって渡したいものがあると伝えておいたから、愛優ちゃんも察しはついているだろう。
心なしかインターホンを押す指が震える。
悟や倉井たちと、皆で勉強をするために何度か訪れているはずなのに、愛優ちゃんの家に来ると未だに緊張する。見上げればそこには西洋の城がごとくそびえ立っている3階建ての家。大きな門構えの立派なお屋敷。
緊張しているのはそのせいではない。
愛優ちゃん、キミに会えるからだ。
なんて物語の主人公のセリフみたいなことを頭に浮かべていると、愛優ちゃんが門扉を開けて出て来た。
「こんばんは」
春なのに風鈴が音を奏でる。
いや、愛優ちゃんの声だ。
「あ、こんばんは」
オレは照れを隠し、「これ」とぶっきらぼうにお返しの入った小さな紙袋を差し出す。
「わ、ありがとう! ホワイトデー、覚えてくれてたんだ」
明るい表情で受け取ってくれる愛優ちゃん。
「楽しみにしてるって念を押されたからね」
冗談交じりに言うと、彼女は口許に手をやって、ふふふと笑う。
「好みが解らなかったから、自分が食べたいものにしたんだけど」
うんうんと頷く彼女。
「ごめん。こういうの慣れてなくて」
「あけるの楽しみ~。 私のことを考えながら選んでくれたと思うと嬉しい」
満面の笑みでそう言う彼女を、やっぱりオレはお慕い申し……。
「さ、入って」
え?
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