13 兄貴の曲
クラスの男子ほとんどが憧れている涼風愛優と、折角一緒に帰れることになったのに、結局緊張のあまり思うように話もできず、ただ歩く作業だけで終わってしまったオレ。
こういうことに慣れていないので、話題が浮かばないというかなんというか。
ガックリと肩を落とし家路につく。
「ただいま」と自分でも解るくらい元気のない口調で、帰りを告げた。
そこに兄がたまたまリビングから出てきて「おう」と声を掛け合う。
「どうした、元気ないな」
そう聞かれて、「いや、そんなことないけど」と答えると、「そんな風には見えないぞ」って。
「兄貴は女子と普通に喋れるのか?」
気づけばそんなことを口走っていた。
「空は普通に喋れないのか?」
「いや、まあ一部の女子とは……」
なんか急に恥ずかしくなって、言葉を濁した。
「ん?」
「あ、明日も試験だから勉強、勉強」
そう言って、そそくさと自室に向かう。
夕食後、2階の自室で明日の準備をしていると、ドアをノックする音が耳に入った。
「どうぞ」
するとドアが開き、「よお」と笑顔とともに兄が入ってきた。
「あ、兄貴」
ギターを片手に持った兄は新曲ができたから、聴いてほしいという。
作詞作曲をする兄は、新曲ができると一番にオレに聴かせてくれる。兄弟だから遠慮なく率直な意見が聞きたいというので、いつもオレはその時に思ったことを素直に告げるようにしている。
「じゃあ、いくぞ」
そう言って、オレのベッドの縁に腰かけて兄はギターをボローンと弾き始めた。
オレは床に座って観客のように見つめている。
「曲名はまだつけてないんだ」
そう告げてから歌いだした。
♪ キミが好きなのは
ボクの中では
変えようのない事実で
変わりようのないこと
キミがボクの中で
大きな存在に
なっていることにもう
気づいてしまったから
ほんの小さなきっかけで
キミと出逢うことになって
毎日の色が変わっていった
鮮やかな彩になった
モノトーンの出来事さえ
原色に変えてしまうほどで
色あせた現実さえ
パステルカラーになる
キミが好きなのは
ボクの中では
変えようのない事実で
変わりようのないこと
ボクの中心に
キミがいるのは
変えようのない事実で
変わりようのないことだから ♪
最後のストロークを弾き終わり、余韻とともにゆっくりと右手のひらで弦を押さえ消音する。
どうだ? と聞くような表情でこちらを見る兄に、オレはすぐには言葉がでなかった。
お読み下さりありがとうございました。
作中の歌詞は作者自身が今話のために認めた、オリジナル作品です。
次話「14 兄貴とオレ」もよろしくお願いします!




