127 とあるバレンタインデー
「じゃあ、お先~」
そう言って悟は教室から出て行った。
入れ替わるように愛優ちゃんがオレの方へとやって来る。
「空くん、お疲れさま。テストどうだった?」
「あ、愛優ちゃん。お疲れ~。まあまあかな」
「もう帰る?」
「あ、うん」
「じゃ、一緒に帰ろ」
わ、今日はふたりでってことですか!?
いつもは試験終了後、教室に残って、オレと愛優ちゃんと悟と倉井の4人で次の日のテスト勉強をしていたが、今日でそのテストも無事終了。もうテスト終わりの勉強会もない。オレは明日からまた部活がはじまるし、せっかくふたりで帰るなら、今日はカフェにでも寄りたいな。って思うけど。
「ああ」
ついこんな言い方になってしまう。
もういい加減慣れろよって話なんだが、こればっかりはしょうがない。
オレと愛優ちゃんは帰り支度を終え、一緒に教室を後にする。
真っ直ぐに続く廊下をひたすら正面を向いたまま歩いて行く。
別に気まずいわけでもないのに、なぜか沈黙のふたり。
おかしいなぁ。今日は愛優ちゃんまで無口だ。
下駄箱の前で立ち止まるふたり。
無言のまま靴を履き替え、また歩き出す。
校門を出てしばらく、冷たい風が頬をなでる。
「寒っ」
思わず声が出る。
「ホントに」
なんか、いつかの会話みたいだけど。
そのまま歩いて公園の前にさしかかった。その角を曲がればあの雨やどりをした軒先がある。
季節は違えど、ふたりで通るとあの時のことが蘇る。
いよいよその軒先の前まで来たところで、愛優ちゃんが足を止める。
「ん? どした?」
「ここで雨やどり」
「うん」
「覚えてる?」
「ああ」
「懐かしい」
「そうだな」
愛優ちゃんはほんのり頬を染めて、カバンの中から何かを取りだした。
「はい、これ」
そう言って手渡された包み。
「え、なに?」
オレは受け取った可愛らしい包装紙を見て、今言った言葉を飲み込みたかった。
「あ、チョコ」
彼女に言わせてしまうなんて。オレのバカバカ。
「サンキュ」
いたって平静を装ったが、こころの中は大騒ぎ。
心臓は元気よく跳びはねるし、冬なのに汗は滲んでくるし。
これは紛れもなく、バレンタインデーのチョコだ。
どう解釈すればいいのだろうか。
まさか告白なんてことはないだろうし。
友チョコか? 義理チョコか?
まあ、なんでもいいや。
愛優ちゃんからチョコをもらえたという事実に変わりはない。
彼女はにっこり微笑んで言った。
「ホワイトデー、楽しみにしてるね」
お読み下さりありがとうございました。
次話「128 とあるバレンタインデーに」もよろしくお願いします!




