120 大事な局面(5)
愛優ちゃんから手渡されたクリスマスプレゼント。
あまりの嬉しさに包みを開ける手も震える。
ようやく中から顔を出したのは、フェルトでできたグローブの中に、ボールとバットがあしらわれた、上部にひもがついているマスコット。
野球部だからこのマスコットを選んでくれたのだろう。愛優ちゃんの気づかいに心が震える。
硬派なオレの感想は……。
とても可愛い。
とても可愛い。
オレが愛優ちゃんの顔を見ると、明らかにオレの反応待ちをしている。
ニコニコとした笑顔にオレはどう応えればいいのか。
ここで間違うわけにはいかない。でも、こういうのはじめてだし。
いろいろと考えても仕方がない。早くなにか言わなければ。
大事な局面だ。
硬派なオレは……。
「おお! めちゃ可愛いね。ありがとう!」
このあまりにも可愛いマスコット。どこにつければ……。
「気に入ってくれた? 一生懸命作ったんだよ」
え、ええー!
愛優ちゃんの手作りですと!
まさかそんなことがあるだろうか。
嬉しすぎる。
「ほんと? これ愛優ちゃんの手作りなの!? 凄く上手だね」
「ふふふ。ありがと」
「だ、大事にします!」
愛優ちゃんは満面の笑みでオレを見ている。
なんか照れるな。その向けられた微笑みにも、手作りのマスコットにも。
その後、オレ達はもうひとつずつケーキを食べて、大満足でお店を後にした。
明日から一緒に宿題をするから、今日は早めに帰ろうと、オレは愛優ちゃんを家まで送って行ったのだが、その途中に少し寄り道をした。
学校の帰り道にある公園。
オレには想い出のいっぱい詰まった大切な場所だ。
この先の角を曲がると、雨の日の愛優ちゃんとの雨宿りを思い出すし、公園の外から中を見ると、あの小学生の兄弟に野球を教えていた時間を想い出す。
そしてなにより一番の想い出は、兄貴と過ごした子供時代。
子供の頃からいつも兄貴の後をついて歩いていたな。
キャッチボールをしながら野球について教えてくれた兄。その兄貴に憧れてはじめた野球は、今ではオレの生活の一部になっている。
オレがはじめての甲子園出場で緊張していたとき、甲子園開会式リハーサル前日に兄貴とキャッチボールをした公園。この中に入ると、いろんな想い出とともにいろんな感情がオレの中に込み上げてくる。
兄はいつも優しく、オレや周りのみんなに気を使ってくれる。
自分のことは後回しにしてでも、誰かのために一生懸命頑張れる。そんなひとだ。
オレの憧れであり目標でもある、兄貴との想い出のいっぱい詰まった公園に、彼女と行きたいと思った。
オレは公園の入り口に立ち、中を見渡した。
この季節、ひとはいなかった。
一歩踏み出して、愛優ちゃんの方を振り返り、「一緒に来てくれてありがとう」と言うと、彼女は微笑んだ。
それから広場を横断し、向こう側にあるベンチに座って、いろんな話をした。
この公園での出来事や想いなんかを。
オレが話している間、愛優ちゃんは優しい笑みを浮かべながら時折うなずき、ずっと聞いてくれていた。
どうしてか解らないが、彼女に話したかったんだ。
そう、今話したかったんだ。
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