119 大事な局面(4)
「あ、空くん。これ」
愛優ちゃんがおもむろに取り出した包み。
「え?」
オレは突然のことにヘンな声がでた。
「ふふふ。だって、今日はクリスマス・イヴでしょ?」
「うん」
「だからプレゼント」
「え、ええー!?」
な、なんですと!
まさか愛優ちゃんからクリスマスプレゼントがもらえるなんて!
今日一緒に過ごせるだけでも嬉しかったのに、愛優ちゃんからクリスマスプレゼントがもらえるなんて!
思ってもみなかったことに、オレの心臓はバクバクしている。
「いつも仲良くしてくれるから、ほんの気持ち」
「あ、ありがとう」
そ、そうだ。
オレも愛優ちゃんにクリスマスプレゼントを渡さなきゃ。
って、プレゼントの包みに手をかけて動きが止まる。
気に入ってくれるだろうかと、突然不安になってしまったから。
「え、なにそれ?」
その様子を愛優ちゃんに見られてしまっていたのか。
ええい、なるようになれ!
「オレも愛優ちゃんにクリスマスプレゼント……」
もじもじと言うオレに愛優ちゃんは笑いながら「ほんと!?」と嬉しそうにしてくれる。
「たいしたものじゃないけど、気に入ってもらえると嬉しいよ」
オレは包みを愛優ちゃんに手渡した。
「わあ! ありがとう!」
まさかまさか。クリスマス・イヴに好きなひととプレゼントを渡しあえるなんて。
そんな日が訪れるなんて。
夏野 空。姿薔薇紫高校2年。
今まで頑張ってきてよかった!
て、周りからはオレ達って、クリスマス・イヴにプレゼント交換をしているカップルに見えるのかな。
でも現実はただのクラスメイト。ただの友達なわけで。
そう。ちょっとばかし仲の良い友人。
愛優ちゃんが彼女だったらなぁ、って思う時もあるけど、だってオレ。ほら。
シャイだし。奥手だし。硬派なんだ。
自分から告白なんてとてもできないし。
それに今は野球を頑張りたいし。
「わあ! 素敵!」
愛優ちゃんはプレゼントの包みを開けて、ト音記号のあしらわれた栞を嬉しそうに手に取って見ている。
どうやら気に入ってもらえたようで、ホッとする。
「愛優ちゃんは読書が好きだって言ってたし、音楽も愛優ちゃんの代名詞みたいな感じだし」
「空くん、ありがとう! 大事に使わせてもらうね」
ふふふと笑いながら、愛優ちゃんは大事そうに栞を包みに戻した。
「ねえ、私からのプレゼントも開けてみて」
「お、おう」
プレゼントの包装を開ける手が震える。
おちつけ、空。
がんばれ、空。
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