118 大事な局面(3)
愛優ちゃんは満面の笑みで目の前に置かれたチョコレートケーキの三種盛を見て、両手を合わせ「いただきま~す」と元気よく発し、フォークを手に取り、どのチョコレートケーキから食べようかと3種類を見比べている。
オレはその様子を微笑ましく見ながら「いただきます」と両手を合わせる。
「空くんって、ちゃんとしてるよね」
愛優ちゃんの言葉に「何が?」と返す。
「だって礼儀正しいし正義感が強いし優しいし思いやりがあ……」
「ちょ、ちょっとやめてよ。そんなに褒めても何も出ないよ」
オレは恥ずかしくなって愛優ちゃんの言葉を途中で遮った。
「まだ続きがあるのに~」
そう言いながら愛優ちゃんはケーキをパクリと頬ばる。
「ん~。おいしー」
「じゃ、オレも」
とイチゴのショートケーキにフォークを入れ、口に運ぶ。
「うわっ。うまい」
シンプルなケーキほど美味しさが際立つわけで……って、評論家のようなことを考えていると、「でしょ~」と嬉しそうに愛優ちゃんが言う。
ああ、なんて楽しいクリスマス・イヴなんだ、とオレの口元もほころぶ。
「ねえねえ。次はどのケーキにする?」
とメニューを差し出してくる彼女。
「え、もう食べたの?」
オレはまだイチゴのショートケーキを半分しか食べていないのに、愛優ちゃんはチョコレートケーキの三種盛をペロリとたいらげていた。
ふふふと笑いながらも、真剣にメニューとにらめっこする姿は可愛くて。
「ん?」
ジーッと彼女がオレを見つめている。
どうしたんだろう。
なにかマズいことでも言ったか?
いや、さっきまで楽しく過ごしていたはず。
「どうしたの?」
オレが訊ねると、「だって」とひと言。
どうやらオレがケーキを食べ終わるのを待っていたらしい。
「気にしなくても、先に次のケーキ注文してて。オレも食べ終わったら次の頼むから」
オレの言葉を聞くとニッコリと笑い、次のフルーツケーキをオーダーしていた。
「フルーツケーキかぁ。美味しそうだね」
オレがそう言うと、しっかりオレの分まで注文してくれるなんて。
フルーツケーキが運ばれてくるまで、オレと愛優ちゃんはなぜか宿題の話に花を咲かせていた。
まだ冬休みが始まったばかりだから、そんなに気にすることもないかもしれないけれど、前半に終わらせてしまって、後半はゆっくりと過ごしたいというのがふたりの意見。
「だよね~」
「だな」
「じゃあさぁ。明日から一緒に宿題しよっか」
「へ?」
突然の愛優ちゃんの申し出に、オレは高めのヘンな声で返してしまった。
それを受けて愛優ちゃんはケラケラと笑っている。
「それとも、なにか予定でもある?」
いえいえ、まさか。
てか、たとえ予定があったとしても、なんとか調整して愛優ちゃんと宿題がしたいと思うわけで。
オレはブンブンと首を横に振った。
「じゃあさぁ。明日は私の家で宿題しよう。次の日は空くんのお家で。宿題ができるまで頑張ろうね」
「お、オッケー。頑張ろうぜ」
な、なんと嬉しきかな。
お読み下さりありがとうございました。
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