114 高校野球秋季大会(1)
10月のはじめ、『高校野球秋季大会』の都道府県大会が始まった。
夏の甲子園に出場したチームなんだ。1回戦で負けるわけにはいかない。と、オレ達は妙な自信を持ち、そのおかげか順調に勝ち進み、いよいよ決勝戦。
今まで頼りにしていた3年生が引退した後1、2年生による新チームで挑むはじめての大会であったので、いささか緊張はしたが、先輩たちに恥ずかしくないような試合をしなければ、とオレ達はとにかくそれを考えて頑張った。
今日勝てば地区大会だ。
逸る気持ちを抑え、オレ達はベンチで試合開始を今か今かと待ち構えている。
いよいよその時がきて、両チームのベンチから飛び出して来た選手達がホームプレートをはさんで並び、審判の合図で両チームとも、帽子をとり、「お願いします!」と発する。
気を引き締めて、後攻のオレ達は守備位置につく。
オレはピッチャーマウンドに立ち、大きく深呼吸をした。
球場に響くサイレンの音ととともに大きく振りかぶって、第1球目を投げる。
「ストライーク」
審判の声が響く。
初球をストライクで決められたことで、オレは緊張がほぐれて、その後は自分でも驚くほどの良いピッチングができたと思う。
ベンチ入りできなかったチームメイト、スタンドで応援してくれる仲間たちや家族、応援歌を歌いメガホンを片手に、手のひらに打ちつけて応援してくれるみんなの思いを、ボールに乗せてキャッチャーミットをめがけて投げた。
試合は進み、オレ達のチームの一方的な展開になっている。
オレはネクストバッターズサークルで素振りをし、ピッチャーが投球するのに合わせてバットを振り、投手のタイミングをはかる。
2アウト1、2塁。オレまで打順が回るか、微妙なところ。
打ってくれよと、願いながら素振りをしていた。
と、そこでパスボール。相手のピッチャーも相当なプレッシャーだったのだろう。ワンバウンドで投球がキャッチャーミットに当たって、後ろにそれていったのだ。
その間に2塁から3塁、1塁から2塁にそれぞれ走者は進む。
その後フォアボールで、オレに打順が回ってきたときには、2アウト満塁。
ここでヒット、欲を言えばホームランといきたいところだが。
オレは気合いを入れ、打席に立つ。
4番バッターの責務を果たすべく、集中して挑んだ。
狙い球がきたので、迷わず振った。
カキンと快音が響き、打球はどんどん伸びていく。
ベンチのみんなが、「入れ、入れ!」と口々にいう声が聞こえる。
入った!
ホームランだ。
オレはゆっくりとベースを1周した。
結局この試合はオレ達のチームが勝利し、都道府県大会優勝となった。
試合終了のサイレンが鳴る。
オレ達の学校――姿薔薇紫高校の校歌が流れ、みんなで歌う。
この校歌斉唱で勝った実感が湧き、胸を熱くする。
その後、選手はスタンドのお客さんの前に整列し、キャプテンの「礼!」と言う声でお辞儀をする。
客席からは惜しみない拍手。
嬉しさが込み上げてくる。
それから道具を片付け、球場から出るときには、オレ達はクルッと回れ右でグランドを向いて「ありがとうございました!」と礼をする。
その後グランド整備がされ、お客さんはスタンドのゴミを拾うのが暗黙の了解のようで。
高校野球の球場は、みんなの心づかいで綺麗に保たれているのだ。
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