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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第1章 はじまり
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 10 一緒に帰る?

 期末試験初日。

 家に帰る前に少し残って勉強をしておこう、と進学校でもある我が校の生徒は思うわけで。

 クラスの多くはそのまま勉強を続けていた。


 しかし時間とともに、ひとり、またひとりと減っていき、いつしか教室にはオレとクラスの男子憧れの的、涼風愛優のふたりきりになってしまっていた。


 内心ラッキーと思いながらも、硬派なオレは特に話しかけることもなく、ただ淡々と問題集を解いていた。


 すると教室の入り口付近からオレを呼ぶ声が聞こえ、そちらに目をやる。

 また例の『不敵な笑み』を浮かべながらやってくる。アイツだ。

 今まで特に関わってくることはなかったのに。


 その特に仲良くも悪くもない、友人と呼べるか呼べないか微妙な感じの友人『A』は、オレ達がふたりきりで教室にいることをからかってくる。


「はぁ? 勉強してんだよ」


 子供じみた冷やかしの台詞セリフに苛立ちをおぼえるも、関わって時間を無駄にするわけにはいかない。適当にあしらっておこう。


 しばらくしてソイツは相手にされないことがつまらなかったのか、「チェッ」とひと言発して教室を後にした。


 その時彼女と目が合い、お互い苦笑したんだが。

 何を思ったか、彼女が席を立ちオレの方に向かってくるではないか。


 一瞬にして心臓から頭までが沸騰していくのが、自分でも解る。


 だが努めて平静を装った。


「おう」


 何が「おう」だ、と心の中で自分にツッコミをいれつつ、彼女を見る。

 すると彼女は、例の『素敵な笑み』で応えてくれる。

 同じ『笑み』でも、『素敵』と『不敵』じゃ大違いだ。なんて。


「夏野くん、まだ勉強するの?」


 チリリンと金属製の風鈴が鳴った。

 いや、彼女の声だ。


「いや。もうそろそろ帰ろうかと。涼風は?」


「私も」


 おいおい、空。チャンスじゃないか?

 今こそチャンスじゃないか?


 じゃ、一緒に帰ろうか?


 たったひと言そう言えばいいんじゃん。簡単だ。

 さあ、言うぞ~。



「そっか」


 やっぱダメだ。いざとなったらなかなか言葉がでてこない。


「じゃ、一緒に帰ろっか」


「え」


 突然のセリフに我が耳を疑う。

 まさか彼女からそんなことを言ってくれるなんて。


「前に約束したでしょ? ほら、あの雨の日に」


「あ、ああ」


「忘れちゃってた?」


 まさか。忘れるはずなどないではありませんか。そのような勿体ないお言葉。


「いや」


 でも、心の中と同じように上手く言葉は出てこず。


「よかった。もう忘れられてるのかと思った」


 そう言って微笑むあなた様を、オレはお慕い申し上げています。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。「不敵な笑み」と「素敵な笑み」、大違いですね。主人公の心の声が面白かったです。 放課後の教室で二人、青春ですね。交わした約束を、彼女から切り出されて動揺する主人公の、…
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