陸にあがったどん!
3
苦しい!苦しい!海の底で完全に人間になった人魚どんは、もがき苦しみました。
もがいて、もがいて、潮の波に乗り、海藻が体に巻き付いて、それでももがきました。
しかし、もう少しで水面という時に、人魚どんは力尽きてしまいました。
そして、気がつくと、海藻が体に絡まったまま、砂浜に打ち上げられていました。
「ここは……陸か……」
何だか声が出しづらく感じました。どうやら海と陸では、音の聞こえ方が違うようです。
人魚どんはしばらく、寝たまま砂浜から見える自分のいた海を眺めていました。
「ねーちゃん!変なのいる~!」
するとそこへ、元気な少年とそのお姉さんがやって来ました。少年のお姉さんは近づいてはいけないと少年に言いましたが、少年は人魚どんの事を棒でつつきました。
「痛いどん……。」
「あ!動いた!生きてる!!ねーちゃん!こいつ生きてる!!」
「こら陸!こいつとか言わないの!」
どうやらこの少年の名前は陸というようです。少年の後ろからやって来たお姉さんは目映い日差しにてらされて、真珠のような瞳で人魚どんを見て言いました。
「あの…………大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?」
「キューキューシャ?…………って何だどん?」
「…………。」
それを聞いたお姉さんは、すぐに黒い板に話しかけました。
しばらくすると、男の人が二人やって来ました。その男の人達は警察でした。警察官は人魚どんに色々と質問をして、立つのを手伝ってくれました。
人魚どんは初めて、新しくできた足で陸地に立ちました。しかし、ぐらぐらして、なかなか立っていられません。人魚どんにとっては、2本足はなかなかバランスが取りずらいものでした。
その後、二人の警官に支えられ、家の中に連れて行かれました。そこでは、シャワーで体を洗い、綺麗な服を着せてもらいました。そして、ベッドの上であちこち調べられた後、建物の中の一室に行くように言われました。
狭い部屋の中には、机や椅子がありました。人魚どんが椅子に座ると
「君、名前は?」
「おいどん、人魚どんだどん!」
「君、真面目に答えればふざけてもいいワケじゃないんだよ?」
人魚どんは大真面目です。
「もう人魚ではないから、どん……どん……」
「どんどん?それ名前?」
「そう、どんどん!人魚どん、どんどんになるどん!」
警官が呆れて別の質問をしました。
「誰か知り合いは?」
陸には誰も知り合いはいません。
「知り合い?陸では、誰もいないどん!あ……!」
「思い当たる人がいたのかい?」
「さっき砂浜でつつかれた少年とお姉さんと、あと、支えてくれた男の人と知り合いになったどん!」
質問した警官はがっかりして言いました。
「それは警察官だよ。」
「あなたとも知り合いになったどん。」
「もういい……。」
陸には、人魚どんを知る人は誰1人いないのです。
目の前の警官が頭を抱えて、ため息をついているのを見て、どんどんは不安になって来ました。
どんどんはこの先、どうなるのでしょうか?どんどんはどんどんどんどん心配になって来ました。
人間になって陸にあがった人魚どんは、すぐに演歌歌手にはなれませんでした。
どんどんは、身元不明者になったのです。