デビューどん!
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水族館を抜け出したどんどんは自由です。自由ですが、何もありませんでした。
寒さをしのぐ服も、足を守る靴も、空腹を満たす食べ物も。当然お金も、遠くへ行く術も、何もありません。
どんどんは、とにかく海の方へ走って逃げました。途中で足が痛くなりました。息が切れて喉が渇きました。それでも、無我夢中で走り続けました。
しかし、どんどんにはわかりません。どの道が海に続くのか、陸の家はどの方向なのか、どんどんには全くわかりませんでした。
とうとうどんどんは立ち止まり、道の片隅で座り込みました。寒さに震えて、小さく丸くなりました。
すると…………目の前で車が止まり、
知らないおじさんがどんどんの目の前に立ちました。
「やぁ、水族館で歌っていたのは君だね?」
どんどんはおじさんを見ると黙ってうなずきました。そのおじさんは水族館の館長とは別のおじさんでした。
「君、もっともっと多くの人に歌を聞いてもらいたいとは思わないかい?」
「え?」
どんどんは驚きました。初めて陸に上がった時のように、警察という所へ行くのだと思っていたからです。
「実は、私はこうゆう者なんだよ。」
おじさんはどんどんに小さな紙を渡して来ました。どんどんは受けとると、その紙を眺めた後、少しは寒さがしのげるかと、その紙を裸の体に貼り付けました。しかし、紙はすぐに剥がれ落ちました。
その紙には、芸能事務所社長と書いてありましたが、どんどんは字が読めません。
「どんどん、海に帰るどん。海に帰って……もう一度魔女に薬をもらうどん!」
そう言ってどんどんは立ち上がりました。
するとおじさんはこんな事を訊いて来ました。
「その薬があれば、人間になれるのかい?」
「そうだどん!薬の効果は1週間だけどん。でも、その後は拍手をもらい続ければ、ずっと人間でいられるどん。」
どんどんに、おじさんはさらに訊きました。
「どうして人間になりたいんだい?」
「おいどん、演歌歌手になりたいどん!」
おじさんは何度もうなずいてどんどんに言いました。
「私についてくれば君はずっと人間でいられるよ。」
「本当どん!?」
「本当だよ。」
その後、おじさんはどんどんに車に乗るように言いました。車の中は暖かくて、まるで海のようでした。
それからどんどんは、社長さんにどんどん売り出され、どんどん歌い、どんどん拍手をもらいました。
こうしてどんどんは、どんどん有名になってゆきました。




