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いたずらの行方(前)*ネコ様視点

連投。次は別連載の方を書きたいので、今日はここまで。

*ネトーブリアン(ネコ様)視点


 ふかふかのベッド、美味しいご飯、綺麗なお洋服、高価なお化粧、煌びやかなお部屋。そして、物を手で掴んで、握って、持ち上げて――、二本の足で歩く自由。

 それらを取り戻した(わたくし)は、まさに再びこの手に掴んだ幸せを再び謳歌しております……、とはいえ、御天道様が既に上がりきった今になっても、ベッドでゴロゴロしている不健康極まりない生活は、カイゼルのところにいた時と、なんら変わってはおりませんが。

 いえいえ、別に、私がしたくてゴロゴロしているわけではありません。呪いが解かれて、一週間程度は様子を見るようにと、宮廷仕えの神父様に診断されたのです。まあ、それをいいことに、自堕落を貪っているのは否定しませんが。


「失礼します」


 二度のノックと同時にそう言って入ってくるのは、ハムルペト。一日か二日、カイゼルの秘書をしていたようですけれど、本来のお仕事――、宮廷のメイドに戻ったようで、そのまま私の専属メイドとして働いてくださっています。

 宮廷メイドの中でも頭一つ抜けて一流……なのですけれど、感情が見えない女性のようで、お話し相手としては少しだけ残念ですわ。

 まあ、こちらから話しかければ、適度に返してくれるので、退屈はしないのですが。声のトーンが上下しない方のせいか、会話自体は続かないのが玉に瑕でしょうか。

 宮廷メイドである彼女が、なぜ私の専属メイドとして働いてくれているのかといえば、私が未だ公爵令嬢ではないことが起因しております。いえ、未だ、というのは、いささか語弊がありましょうか。正確には、ニック第一王子の婚約者として、ここに居座らせていただいておりますので、公爵家と復縁するという未来は、おそらくはないのでしょう。

 元々、家族(わたくし)に対して関心のなかった両親ですから、特に気にもしないのですけれど、ただ、復縁の申し出が少し煩わしいですわね。


「お加減はいかがですか、ネトーブリアン様」


 そう言いながら、ハムルペトは芸術的とも言えるほどの手際で、お茶を入れてくださいます。本来、ファーストネームで呼ぶことは無礼であるのですけれど、今の私は家名はなく、ただのネトーブリアン。では、お嬢様でもいいと平民は感じるかもしれませんが、お嬢様といっても、「誰の?」という疑問符をつけざるを得ません。療養中ということで、部屋を出る予定も、ハムルペトやニック王子以外の誰かと会う気もないので、今はそれで問題はないのですけれど。


「平気ですわ。ただ、少しだけ、そう、少しだけ、運動不足が気になりますわね」


 主に、お腹周り的に考えて。


「明日で丁度一週間が経ちますから、朝にでも、散歩をされてはいかがでしょう」


「そうですわね……、明日の予定はどうなっていましたか?」


「一昨日にも申しましたが、明日は殿下とのご婚約が、パーティーで発表されます。パーティーは午後になるので、午前の予定は空いております」


「そういえば、そうでしたわね」


 病み上がり扱いではありますが、当然ながら、パーティーには私も参加することになります。あまり、宮廷内を混乱状態にしておくわけにもいかず、一旦の結論を、貴族に示す必要もあるのでしょう。


「ご婚約、おめでとうございます」


「ありがとうございますわ」


 その感謝の言葉に、なんの感情もこもってはおりません。感謝はもちろんながら、喜びも、悲しみも、そこにはありません。

 というのも、ニック王子との婚約に、思うところは特にはございませんし、元々、どこの誰と結婚するのかわからない身の上。公爵家時代に親しくしていたお茶友達である伯爵家の御令嬢が、四〇も年上の侯爵様とご結婚されたという話もあったほどです。一々、感情を動かしていては、身も心も保ちませんもの。


(ニック王子とのご婚約について、カイゼルは知っているのでしょうか)


 ふと、そんな疑問が脳裏をよぎると同時、胸がズキンと締め付けられます。やはり、呪いの影響が、少なからずあるのでしょうか? であれば、朝の散歩も、少し考えなくてはなりませんわね。呪いのせいですもの、仕方ありませんわ、ええ。

 お腹周りのことは頭から床に叩き落として、ハムルペトが入れてくれた香ばしいお茶に口をつけた、ちょうどその時。コンコンと、扉が叩かれる音が響きます。

 ハムルペトに視線を送ると、優秀なメイドは足音を立てずに歩き、扉を小さく開きます。

 すると、そこから2、3と言葉を交わした(のち)、入ってきたのは、ニック王子でした。ニック王子以外とは会う気はないと、事前にハムルペトに伝えてはいたので――ニック王子にも、落ち着くまではとそのように言い含められていましたし――、ハムルペトに特に思うことはなく、私は反射的に、にこりと笑顔を貼り付けます。


「御機嫌よう、ニック殿下。申し訳ございません、このような見苦しい姿で」


 一応、淑女として相応しい寝巻きを着てはおりますが、それでも、人と会うような格好ではありません。このようなお姿は、普通は見せても、見てもいけないのですけれど、ニック様は、そのあたりもご理解されているでしょう。

 それだというのに、こうして部屋まで来られたということは、何か、直接話さなければならない大事なお話があるということなのでしょうが。


「いやいや、構わないよ。病人は、人に気を使うことなく、ゆったりとしていればいい」


「…………」


 そのお優しい言葉が、心の臓にグサリと刺さります。ただただ、理由(たいぎめいぶん)があることをいいことに、ぐうたらとしているだけですのに……、優しさが苦しいですわ……っ。


「とはいえ、今日は来たのは、部屋の外に出ないかという、お誘いをするためなのだけれどね」


「部屋の外に、ですか? お庭でお茶会ということでしょうか?」


「表向きはお茶会なのだけれど、残念ながら、そういう、華やかな場にはならないだろうね」


「それは、どういう意味でしょう……?」


 お茶会とは、御菓子と御茶を楽しみながら、談笑する場。婚約者や、お友達とのお茶会は、多少の思惑はあろうと、基本的には華やかな場になるものでございます。だというのに、華やかではないお茶会とは、矛盾しておりますわ。


「表向きはお茶会、けれど、実際は、別れの挨拶のようなものさ」


「ええと……申し訳ございません、ますますわからないのですが」


「これは君の意思に任せることなのだけれど、僕の愚弟、第二王子ネトラリアン・ルーン・エル・ド・エニエスタと一度話さないかと、思ってね」


「え?」


 ニック王子から、案の外のご提案。あまりに予想外……というより、思いつきもしなかったために、おそらく、今の私は、鉄砲豆を食らったような顔をしているでしょう。

 しかし、すぐさまに私はニヤリと口を歪めて、こう返します。


「ええ、是非、お願いいたしますわっ!」


 どんな仕返し(いたずら)をして差し上げましょうか…………うふふふふふふふふふふふ……っ!

うふふふふふ。


ブクマ、評価点、感想、誤字報告、ありがとうございます。特に感想は嬉しいです。


追記:皆さんはどんなザマァ展開が好きですか?本作でのザマァ展開はすでに決まってるので、本編とは全く関係ないことなのですけれど、私、気になります。


ちなみに私は喜劇が好きです。


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