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この加護なんとかしてよ聖女様~メイド服が脱げません~

 のどかな街道で相対する小柄で黒髪のメイドとゴロツキ。

 お昼下がりのうららかな日差しは、綺麗に植林された広葉樹が葉を揺らめかせている。

 そんな緩やかな緑の匂いを届ける空気の流れの中、彼らは出会った。


「さあ、メイド……もう逃げられないぜ? 答えを聞かせてもらおうか?」

「そうでやんす! 可哀想だと思うなら今すぐ『はい』って言うでやんす!!」

「馬鹿野郎! ヤスリン!! 余計なこと言うんじゃねぇ!!」


「ええと、一体なんなんです?」


 恐る恐る声を上げたメイドは困惑していた。

 背中に赤子をおんぶして、小さな旅行かばんを携えて街道を歩いていただけなのに……いきなり街道脇の木陰から飛び出てきた二人組が通せんぼしたのだから。

 

「ココらへんは物騒なんだ! だから隣町まで護衛してやろうっていう冒険者ギルドのエース! アニキサス様達の温かい心遣いなんだ! わかったかメイド!」

「この街道で盗賊とか聞いたことがないんですけど……」

「兄貴ィ! このメイド結構面倒くさい性格してるっす!! いっちょ前に否定しやがったっす!!」


 言いたい放題のアニキサスとヤスリン。

 どう見ても冒険者というよりゴロツキ風の姿なのだが。

 

「メイドメイド言わないで下さい、ボクの名前は『メイ』です。面倒くさい性格は否定できないですけど……先を急ぐので失礼しますね?」


 たった二言三言会話しただけで――この人達は面倒くさい。と、メイは結論付け立ち去ろうとする。


「待て待て待て待てぇ!! 俺たちを雇っておいて損はねぇぞ? お嬢ちゃん、しかも子連れならなおさらだぜぇ?」

「そもそもなんで護衛を押し付けられてるのかわからないのですが」

「ん? そんなの金が無いから弱そうな奴の護衛をして小銭稼ぎしてるからに決まってるだろう?」

「兄貴、このメイドあんまり頭良さそうじゃないっす!! 丁寧な説明で目からウロコっす!!」


 得意げな冒険者と、冷めた眼差しでなんとも言えない微妙な表情のメイ。

 

「ええと因みにですね? 冒険者はギルドの仲介がなければ依頼を受けられないはずですよね?」


 こういうときは正論で行くべきだとメイは思う、きっと規約ぐらいは頭に入ってると信じて。


「この依頼を失敗したらギルドから追放されるから駄目だ!!」


 大失敗だった、そもそもこの二人はもう冒険者ですらなくなりかけていた。

 

 (うん、僕が馬鹿だった)

 

「このままじゃ兄貴と俺は路頭に迷うっす! 困ったメイドを助けておけばきっと今回くらい見逃してくれるっす」


 そう言って二人は両膝を付き、深々と頭を下げ始めた。いわゆる土下座である。

 どうやら強気に出たのに見込みがなさそうなので、早々と方針変更したらしい。

 

「う~ん」


 さあ、どうしようかとメイは空を見上げて考える。

 メイの目的は背中の赤ん坊の親である一人の女性を探しに行くだけだ。

 因みにその女性はなんなのかというと。


「ごめんなさい、ちょっと事情があってこの娘の母親を探しに行く所なんです。その人はこの国の王妃『聖女』、アリア様なんですよ」

「「……」」


 素直に真実を伝えるメイに対し、無言のまま二人の頭が揃って上がる。

 不審そうな視線がメイの腰の辺りで止まった。


「……(なんでそこで止まるの?)」


 疑問は尽きないがメイは続ける。


「それでですね? 一応極秘でお城から出てきているので護衛なんて付けたら目立っちゃってしょうがない訳なんですよ。……あの、なんでそこで目線を固定しているんです?」


 アニキサスとヤスリンの視線の先が気になり、メイは問い詰める。

 二人の不審の原因は、言葉というより何かを見てしまった視線だった。


「……お前」


 アニキサスが呟く。


「はい?」


 メイが答える。


「……男だったっすか!?」


 ヤスリンが叫ぶ!!


「ふえっ!?」


 メイはやっと気づいた、膝丈程度のスカートは土下座した二人から見上げるとスカートの中が……具体的には男物の下着が彼らから丸見えである事を。


 そこからのメイの行動は早かった。

 右足を軸にして、左足を限界まで後ろに振り上げる。

 そのまま二つの頭を串刺しにするイメージで見えない線を引く。

 後はその線をなぞるようにつま先で抉り抜いた。


 たった一瞬の間に行われる蹴りは救国の英雄であり、現在この国の王である『(アキラ)』(偽名:メイ)にとっては朝飯前だ。一応手加減はしている(つもり)らしい。


 ボグンッ!!


 残像を残しかねない速度でローファーの爪先がアニキサスのこめかみに突き刺さり、そのままヤスリンの顔面を巻き込んで地面に叩きつけた。二人共ぶっ倒れてピクリとも動かなくなったが、胸のあたりがゆっくり上下しているので生きているのは間違いない。


「はあっはあっ……」


 物言わぬ冒険者二人(死んでない)を前に息を荒げ、頬を流れる汗を拭い。

 目撃者を黙らせる女装メイド姿の救国の英雄(国王)がここに居た。

 とても国民には見せられない最低な絵面である。

 

「良かった他に旅人が居なくて……アリアは酷いよ、いくら刺激がどうのと言ってたからって僕にメイド服を着せて装備固定の加護をかけるかい? 加護だから解呪の魔法も効かない上に本人しかそれを解けないとか、呪いより質悪いよ……」


 『アキラ』は周りを入念に見渡し、他に目撃者がいないことを確かめる。

 そして、ついつい愚痴をこぼしてしまった。


 国内外に知られる慈しみの象徴『聖女』、アリアはそれはもう美しく……魔王を倒して世界に平和をもたらした英雄と国を建てて結婚した。

 その後も積極的に各国との交流を深め、病を癒し、土地に祝福を与え、魔を退けた。それはたった数年で英雄であるアキラの名前が掠れる程であった。しかしアキラは気にしない。


 元々平和主義者でひっそりと最愛の妻と共に日々が過ごせればよかった。

 アリアもアキラのことを愛している、それはもう溺愛だった。


 結婚して二十年、すでに人外の力を得た二人は老化も遅く。

 跡継ぎをのんびり構えすぎてしまったが、昨年無事にアリアは第一子を出産。子供に愛情を注いで育て、そろそろ二人目……そんな相談をしていた時にアリアから話された『ちょっとした要望』が今回の悲劇につながる。


 ――アキラってばこうしてみると女の子みたいね? ねえ、これ着てみて。きっと似合うと思うの。


 妻の気まぐれで侍女の服に袖を通したアキラ。

 その姿を見た妻があんな行動に出るとは思っても見なかった。


 ――と・う・と・い!!!!


 彼女は両手をがっしり合掌し、目の中にハートを浮かべて鼻血を噴出した。

 それまでそんな気配など微塵もアキラは感じ取れなかったのに。


 危険を察知してアキラは即座にメイド服を脱ごうとしたが、アリアの行動は早かった。

 呪い避けのために施される装備固定の加護を全神力を込めて、力ずくで施したのだ。


「汚れないし、壊れないし、脱げないし……しかもそのまま外遊に出ちゃうし」


 因みにそのタイミングでアリアが外遊に出た理由は、簡単かつ腐っていた。


 ――アキラのかわいい姿を合法的に世に広める為にちょうどいい機会よね! ぐふ、ぐふふふ(じゅるり)


 どうやら聖女のくせに腐属性が付与されたらしい。見たこともないハイテンションでアキラに睡眠の魔法をかけ、そそくさと外遊に行ってしまった。

 加護を解くためには自分に会いに来なければいけない事を加味した悪魔の所業である。


「……ねえ、アスモデウス。なんとかこの加護ぶち壊せない?」


 これまですやすやと寝息を立てていた娘に声を掛けるアキラ。


「んう? なんじゃアキラ……今メイフェリアがやっと落ち着いたというのに」


 わずか一歳になりたての赤子が流暢に答えた。

 眠たげに欠伸をしてトロンとした眼差しで、父親であるアキラに返事を返したのだ。


「いや、一応元魔王だろ? 加護とか壊せないかなって……」

「今お主たちの娘を必死で護り続けとる儂にそんな余力なんぞあるわけ無いじゃろ?」

「だよねぇ」


 肩を落として落胆するアキラ。

 元宿敵である魔王『アスモデウス』が何故アキラの娘に取り憑いているのかというと……。


「儂がなんとか取り憑いておるからお主たちの娘が一命をとりとめておるのじゃ、どうしてもと言うなら相応の準備が必要じゃが?」

「……やっぱりアリアの所に行くしか無いかぁ。ありがとう、引き続きお願いするよアスモデウス」


 そう言ってアキラは娘の頭を後ろ手に撫でる。慌てたのはアスモデウスだ。


「な、なんじゃいきなり! 儂はお主が泣いて懇願するから仕方なく! しかたなーくメイフェリアに取り憑いておるのじゃ! そこの所間違ってもらっちゃ困るんだからね!?」


 はいはい、と苦笑を浮かべてアキラは旅路へ戻る。

 アスモデウスは不自由な視界を精一杯動かし――おんぶされているので首を回さないと周りが見えない。なんとか先程昏倒した二人組を見下ろす。


「なんじゃこのまま置いていくのか? まあ、ここらでは野生のうさぎしかおらんがのう」

「巡回騎士が見つけるよ……多分」

「そうじゃな、魔族なんてここには……」


 居ない、そう言おうとしたアスモデウスは後悔する。


「見つけましたアスモデウス様!! さあ、おむつを変えましょう!! 」


 後ろから声をかけてきた元魔王秘書(クールな出来る美女で全世界の幼女の味方)は、おむつと哺乳瓶を携えた腐属性付与者でもあった。

 走って追ってきたらしい。

 

 

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