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『繰り返し』~息抜き短編小説集~

作者: 神城弥生

「おい、見ろよ彼女また綺麗になったよな!」

「……ああ」


 大学の廊下ですれ違う彼女、ジェシカはとても綺麗だった。金髪の髪にスタイルのいいからだ。そして何より華のように綺麗な笑顔が僕はとても好きだった。


 彼女とすれ違う時にいい香りがした。僕があげた香水の香りだ。だが彼女はその事をしらない。そもそももう僕の事を覚えていないだろう。だがそれでいいんだ。それでいい。


 僕はどうしようもない男だった。喧嘩っ早くて女を何人も泣かせて、どうしようもない人生を送っていた。だがそんな僕に転機が訪れる。まさに女神のような女性との出会いが僕を大きく変えたんだ。


 一か月前、僕はジェシカと付き合いだした。きっかけは知り合いのパーティで知り合ったんだ。僕らはすぐに意気投合しそして恋に落ちた。気が付けば僕らはベットの上で激しくそして深く交わりあう。細いが程よく引き締まった体、絹のように滑らかできれいな瞳に僕は吸い込まれそうだった。


 いつまでもこの時間が続けばいい、そう思っていた。


 次の日僕は彼女と買い物値出かけた。そこで珍しい香水が売っていて、その香りは彼女にぴったりだった。僕はそれをプレゼントして彼女はとても喜んでくれた。


 そしてその帰り道彼女は死んだ。


 飲酒運転をした男性が彼女に突っ込んだのだ。僕の目の前で。


 僕は突然の出来事に何もできなかった。


 あと一歩僕が前に出ていたら、彼女の手を引くことが出来たら、彼女は死ななかなったかもしれないのに。


 僕の心には悲しみと後悔が渦巻き、そしてそのショックから僕の目の前はブラックアウトしていった。


「おいおい大丈夫か?パーティの前から酔っぱらってんじゃねぇよ。今日はとびっきり可愛い子たちを集めたからさ」

「……は?」


 気が付けば俺は友人の車で眠り、そして今起きたようだ。まさか夢オチか?全身には嫌な汗をかいていた。


「紹介するよ、彼女はジェシカ。お前と同じ大学なんだってよ」

「よろしくね」

「あ、ああ」


 パーティ会場に着くと真っ先に紹介されたのは先ほど死んだはずのジェシカだった。彼女は夢の中で見た通りの容姿をしていた。僕は驚いたが、そんな事よりも彼女が生きていたことを喜んだ。一緒に酒を楽しみダンスを踊って、そして僕らは深く結ばれた。


 次の日、あの夢の中の様に雑貨屋に向かうとそこには珍しい香水が置いてあった。その香りを彼女は気に入り僕はプレゼントしてあげることにした。


 だがその時から僕の中で嫌な予感がしていた。


「なぁに?そっちは帰り道じゃないんだけど?」

「いや、いいんだ。君を帰したくなくてね」


 そんな思い付きの嘘だったが彼女は喜んでくれて、再び僕の家に泊まることになった。


 そして僕の家に向かう途中で、彼女は死んだ。


 突然近くで車が爆発し、そして飛んできた車のドアが運悪く彼女の頭部に当たり即死だった。


 僕は泣き叫び、そして目の前がブラックアウトした。


「おいおい大丈夫か?パーティの前から酔っぱらってんじゃねぇよ。今日はとびっきり可愛い子たちを集めたからさ」

「……は?」


 気が付くと僕は友人の車で例のパーティに向かう途中だった。


 まさか、でもそれしか考えられない。僕は過去に戻っている?過去をやり直しているのか?


 頭の中には疑問だらけだった。何故?どうして僕が?過去に戻って神は僕に何をさせたいんだ?

 

 だがパーティ会場について僕はその答えを導き出す。ジェシカだ。彼女を助けるために僕は何度も戻っているんだ。


「紹介するよ、彼女はジェシカ。お前と同じ大学なんだってよ」

「よろしくね」

「ああ、よろしく」


 僕は今度は彼女を何とかパーティ会場に引き留めようとした。できるだけ酒を飲ませて酔わせ、そしてここで眠ってもらおうと。


「あれ?ジェシカは?」

「ん?彼女なら呑み過ぎたって言って外に出ていったよ?」


 まずい!そう思い彼女を探すとすぐに見つかった。


 そうか、彼女が死ぬのは今日じゃない、明日だ。僕は彼女を連れて家に帰り彼女を寝かせた。


 そして次の日、僕が目を覚めるとすでに彼女は家の中にいなかった。テーブルの上には置手紙があり、「ご迷惑をおかけしました」とだけ記されていた。僕は慌てて外に出て彼女の家に向かう。


「聞いたか?強盗だってよ」

「ああ、女性が一人射殺されたらしいな」


 彼女の家に向かう途中にある銀行に警察が集まり、通行人がそんな会話をしていた。僕は嫌な予感がし、そしてその予感はすぐに的中する。


 銀行からタンカーで運ばれてきた女性はジェシカだった。そして僕はブラックアウトする。


「おいおい大丈夫か?パーティの前から酔っぱらってんじゃねぇよ。今日はとびっきり可愛い子たちを集めたからさ」


 僕は何度もやり直した。彼女を救おうと何度も何度も何度も何度もやり直した。だがそのたびに彼女は死んでしまう。


 だんだん僕の精神は崩壊していった。


「おいおい大丈夫か?パーティの前から酔っぱらってんじゃねぇよ。今日はとびっきり可愛い子たちを集めたからさ」

「…・・・悪い、気分が悪いから降りる」

「は?ちょっと!おい!!」


 もう何度目だろう。十回から先は数えていない。もう無理だ。何をしても彼女は死んでしまう。


 僕は自宅へ帰り、そしてベッドに蹲り必死に考える。だがいくら考えても答えが出なかった。


 次の日ふらふらになりながら大学へ行くとジェシカが現れた。彼女は生きていたのだ。


「ジェシカ!」


 思わず駆け寄り話しかける。


「この人誰ジェシカ。知り合い?」

「知らない。ストーカーかな?」

「え?大丈夫?警察呼ぶ?」


 僕の必死な形相にジェシカは友人とそんな話をしながら教室へと消えていく。


 だが僕は嬉しくて嬉しくて泣いていた。彼女が生きている。それだけで僕は幸せだった。


 大学が終わり自宅に帰ると留守電が入っていた。その内容は自宅近くで母親が事故にあい亡くなっていたのだ。


 僕は泣いた。彼女の次は母親か。だが僕には母親を救うことが出来る。僕は必死に自分を精神的に追い詰め、そして目の前がブラックアウトする。


「おいおい大丈夫か?パーティの前から酔っぱらってんじゃねぇよ。今日はとびっきり可愛い子たちを集めたからさ」

「……成功だ」

「は?」

 

 どうやら僕は精神的に追い詰められブラックアウトすると、この場所に戻れるらしい。

 

 彼女の救い方は分かった。会わなければいいんだ。そして僕は実家に戻り母さんに家から出ないように釘をさす。念のために僕も実家に泊まる。


 次の日父さんが亡くなった。事故だった。


 僕はやり直し、両親を助けた。だが今度は友人が死んだ。そして次は友人の彼女。


 やり直すたびに僕の大切な人が、その周囲の人が死んでいく。


 もう僕にはどうすることも出来なかった。


「おいおい大丈夫か?パーティの前から酔っぱらってんじゃねぇよ。今日はとびっきり可愛い子たちを集めたからさ」

「……帰る」


 もう疲れた。僕には人は救えない。僕は自宅に帰り、そして酒を煽った。次の日も大学に行かずに街をふらつく。何となくあの香水を買った。すると目の前にいる子供に向かって車が突っ込んできた。


 僕は誰も救えない。だったら……。


 僕は車に轢かれ、そして目の前がブラックアウトしていった。


 目を覚ますとそこは病院だった。何故だか僕は生きていた。だが事故のせいで下半身不随になってしまう。


 だがそれでもいい。他の誰かが傷つかなければ。


「おい、見ろよ彼女また綺麗になったよな!」

「……ああ」


 大学の廊下ですれ違う彼女。僕は友人に車いすを押してもらっていた。


 彼女とすれ違う時にいい香りがした。僕が上げた香水の香りだ。だが彼女はその事を知らない。そもそももう僕の事を覚えていないだろう。香水だって勝手に彼女のバッグに忍ばせたものだ。


 僕はどうしようもない奴だった。喧嘩っ早くて、女を泣かせてばかりだった。だがそれも終わりだ。こんな体じゃ彼女も作れないだろうし、今までの行いのせいで友人も少ない。


 そんな時友人のミスで僕の車いすは階段を踏み外し僕は転げ落ちてしまう。


「だ、大丈夫!?」


 僕に真っ先に駆け寄ってきてくれたのはジェシカだった。彼女の声を聞いて、匂いを嗅いで、僕は泣き出してしまった。


 ジェシカは僕がどこか怪我をしたと思って救急車を呼んでくれ、一緒に病院までついていってくれた。


 それから僕らは仲良くなり、付き合い、そして結婚した。


 こんなどうしようもない僕だけど、こんな体の僕だけど、だけど僕は彼女を一生大切にしようと思う。


 これが僕と彼女の出会い。


 これが僕の身に起きた奇妙な出来事だ。


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