8. 涙
一度壊れた私のスマホは元通りになっていた。電話が終わった後電池が直ぐに切れた。
私はそれを充電しようとケーブルでスマートフォンを繋げる。私は急に自分の死体が恋しくなった。どうにかしてそれを取り戻せないものだろうか。私は考える。
もしかしたら私は自分の死体を売られるためにグランドゴールデンマジシャンに招かれて死んだのかもしれない、しかしお金は私に入ってきている。
充電中のスマホで私の口座を確認するが、今どきの女子高生に相応しくない金額が振り込まれていた。1200万円。それともともと入っていた三千円があった。私の死体はどうなってしまうのだろうか。せめて私はお墓に眠りたかった。
外は雨だし、私は風邪だし、何より私の体は死んでいる。今の私は幽霊だった。それを信じてもいいのだろうか、私は幽霊なのだろうか本当に。少しだけ疑問が残る。
母さんがお盆に湯気が立つマグカップと食事を私の部屋に運んできた。
「ご飯食べちゃいなさい」
「わかった、今日の献立は何?」
「あったかいうどんだよ。飲み物はほうじ茶。あなた玄関で吐いたでしょ?安静にしとくのよ」と母さんは言うが、とてもじゃないが私はお酒を飲んだせいで吐いたのだとは言えなかった。
「うん、いただきます」私は箸をとってうどんに口付ける。結構のど越しのある麺でつゆはほんのり甘くて慈雨のようであった。うどんを食べている最中に私は涙が出てきた。
「どうしたの、泣いちゃって。悲しいことでもあった?失恋?」
「うどんが美味しくて涙が出てきた」私の声は涙声だった。ちょっと恥ずかしいので顔が火照ってきた。
「手作りだからね、お母さんの味だよ」
「うん」
私はうどんを食べ終えるとほうじ茶を飲んだ。ほんのりとした熱さであった、それをゴクゴクと飲んでいく。私の涙はもう止まっていた。
「ああ、美味しかった。母さんありがと」
「どういたしまして。よく寝るのよ」
「ご飯食べたら眠くなってきちゃった。おやすみ母さん」
「おやすみなさい」そう言って母さんは部屋から出ていった。
私はベッドにもぐるともさもさとした動作で布団を首元まであげて目を閉じる。なんだか無性に悲しかった。
「もう、いや」私はそう言うと毛布の匂いを嗅ぐ。私の体臭の臭いがしていた。でもとても落ち着く臭いだった。
雨音はまだ続いている。