7. オークションでの死体の価格
私は酔っぱらって玄関マットの上に寝っ転がった。
玄関マットはほんのり湿っていて濡れた獣の臭いがしていた。「ゲヘヘヘヘヘ」私はよだれを垂らしながら笑っていた。
「う、う、ウプッ」喉元からせり上げてくるものがある。玄関マットの上で四つん這いになると私は口を床に向ける。「おええええ...」先ほど飲んだワインを全て吐いてしまった。
玄関マットが赤で汚れていく。吐き終えて落ち着くと頭に鈍痛を感じていた。視界が霞み涙がとめどなくあふれる。私の吐しゃ物の湿った臭いが雨の匂いと混ざり合う。
「気持ち悪い・・・」頭の痛みはドンドンと重たくスピードも上がりパシャパシャと連続でカメラのフラッシュを視界にサブリミナルされたフィルムのようにチカチカとしている。
私はまずは呼吸を落ちつけようと深呼吸をする。床へと私のよだれがツーっと落ちていく。私は口を手で拭うと洗面所に行った。
洗面所で冷たい水を蛇口から出して、口をゆすぐ。それから顔を洗いタオルで軽くふくとぞうきんを一つ棚からだして私のゲロを掃除することにした。
ゲロを掃除しているとまた玄関に人影が現れた。その人影は赤い服を着ているようであった。上下の赤い服。玄関の曇りガラスからそれが見える。
私は思い切って何も言わないで玄関の扉を開けることを決意した。
玄関の扉を開ける。
ガチャリ。
玄関の向こうは水浸しで扉を開けた拍子に地面にある雨水が私の家に入ってきた。するするするーっと水は入ってきて玄関の靴置き場に浸水する。「キャッ」私はそう言って扉を閉めた。
あやうく靴が雨水で濡れるところだった。さっきの赤い人影はいなかった、一体私は何を見ているのだろうか。
私の日常は雨が降ってきた時から、あのグランドゴールデンマジシャンに行った時から随分と様変わりしてしまったようだ。
私の脳はおかしくなったのだろうか。それとも私はすでに死んでしまっていてあの世にいるのだろうか、あるいは私は幽霊なのだろうか。
「私は、幽霊」と口に出す。また吐き気がしてきた。
そして私は玄関でゲロを吐いた。二度目の吐しゃ物。今度は黄色い。「幽霊がゲロ吐くわけないか」
私は口を洗うとまた自分の部屋に戻った。吐き気はおさまり、ずいぶんと落ち着いていた。酔いの最後に来る極度のリラクシング状態だった。
この間、壊れたスマホを手に取ってみる。「この前は反応なかったけど、乾いたからもしかしたら直ってるかも」
スマホの液晶に指をやりクリックする。
"Grand Golden Magician"とロゴが出る。「え?ゴールデンマジシャン?どういうこと?」しかしそれが出たのは最初だけでいつもと同じようにスマートフォンは使えるようであった。
「なんだ、こけおどしね」私は自分が書いてるブログのページを開くと記事を書くことにした。
雨の七日間、X日目、お酒を飲んでゲロを吐いた。
記事はそれだけ。ブログを更新したとき着信があった。
「えっと、誰だろう。相手先はエリザベス?外国の人かな。はい、もしもし」
「紫雪子さんですね。私はグランドゴールデンマジシャンのエリザベスです。あなたの死体をお預かりしています。あなたの死体はオークションにせり出され価格がただいま出たところです」
「へぇ、やっぱり私は死んでいるのね、それでいくらなの?私の死体」
「雪子さんは女子高生ということですし、体も綺麗で、つまりは処女ということで全体的な死体の雰囲気も上品だったためお値段は1000万円を超えています」
「処女って、たしかに私はセックスしたことないけど、私の死体をもしかしてそういうことに使うの?」
「いいえ、ドールは飾るだけですよ」
「私の死体がどこかのお金持ちの家に飾られるということね?」
「そのとおりです。それで雪子さんの口座なんですがそこにお金を振り込みたいと思ってるんですが、教えてくれませんか?」
「ええ、わかったわ。私の口座はXXX銀行のXXXX番よ」
「XXX銀行のXXXX番ですね?」
「そう」
「わかりました、そこにお金を振り込んでおきます。それでは死後の世界をお楽しみください」そう言って電話は切れた。