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5. 生を死に変える

 ドシャドシャと濁った雨の水を足で揺らしながら街中を歩いていく。気が付くと傘は折れていた。私をそれを水の上に投げ出した。

「るるるる~、るるるる~、るるるる~♪」私は鼻歌を歌いながら、水まみれになり歩いていく。もう全身はずぶ濡れで冷たく、頭は風邪と濡れて冷却された雨水の染み込みのせいでなんだかわからなくなっていて私はポケポケポケっとしていた。

 街は誰もいない。ガランとした私の街。ただ辺りを打ち付ける雨の音と強い風の音が聞こえている。私の耳の中まで雨水は入ってくる。私は耳の穴をほじるとそれを取り出してみてみる。薄墨色になった雨水は美味しそうだったので、それをパクリと口に入れる。

 何も味がしない。雨水は何も味がしない。ドシャンドシャンと勢いよく歩いていく。

 やがて私はだんだんと体に倦怠感を覚えてくる。全身が微熱で高揚しトランス状態だった。私の梅雨の時期の風邪はそれらを濁流のように運んでくる。同時に疲れていた。

 急に足元の水嵩がなくなった。雨も弱めになる。

 私は目をごしごしとこすると今いる場所を見つめてみる。そこはこの前来た場所へと続く階段のすぐそばだった。

「なんだ、直ぐ着くじゃない」と私は言うと、階段を下りていく。

 階段はビチャビチャに濡れていてよく滑る。「あっ」私はバランスを崩し階段を頭から落ちてしまった。意識が回転し、視界がとたんに眼前に現れるかのようにジェットコーストする。

 バタバタバタバタバタンと階段を落ちると白い分厚い扉があった。扉は少しだけ開いていた。私はあちこち痛む体を立ち上げて開いた扉を開ける。


 部屋の中は真っ暗だった。静寂だった。私が扉の奥にするすると紛れ込むと後ろでカチャリと静かな音を立てて扉が閉まる音がした。

「どうも、紫雪子むらさきゆきこです」

 パシャリと電灯が灯る。白色のポールの電灯と金色のポールの電灯、上部の白い球体が棒に乗っかって光っている。床は白黒のチェス盤の模様。

「誰もいないのかな?」部屋の奥へと進んでいく。古びたタバコのやにで汚れたもう薄くなってしまったグリーンの電話があった。

 その電話が鳴り始めた。どこかからウグイスの鳴き声が聞こえた。ここでは雨音は遮られていた。

「えっと、出てもいいのかな?」なんとなくの思いで私は電話に出てみる。「もしもし、紫です」

「ようこそ」

「どういたしまして」

「部屋の奥へと進んでください」と言って電話は切れた。言われた通りに部屋の奥に進んでいくと薄暗い空間に銀色の鏡があった。

 ちょうど目の前にそれはあり私の全身を映している。私の全身は濡れていた。お気に入りの服から水滴が床にこぼれている。なんだかなまめかしい。「なまなまの女子高生」私は口を開く。

 どうして私は雨の日にお気に入りの服を着てきてしまったのだろうか、バカなの?と自問してみる。「まっいいか洗濯すれば」

 鏡を見つめていると意識が吸い込まれていくのが感覚でわかる。私の第六感を含めた全ての感覚が風邪を引いた時のようにずれていく。

 その時、風邪と風邪は重なりあった。私は死んだのだとどこかの意識上でわかった。


 気が付くと鏡の前で私の体は倒れていて、私はその上にいた。

「私の死体」死んじゃった。

「ようこそ、グランドゴールデンマジシャンへ」その時、鏡の向こうから黒いタキシードを着た男が出てきた。「私はここの総支配人、マジシャンです」

「マジシャン?」

「そうです、雪子さん。是非死の世界を楽しんでくださいね」

「まだ生きていたかったけど、私は死んだのね」

「ここに来た時点であなたは近いうちに死ぬ運命だったのですよ」

「ここに来た時って一昨日?」

「そのとおり。ご安心ください、あなたの死体は発見されずにドールになってこのまま行方不明になります。この場所は死ぬ運命にある人しか来られないのです」

「ふーん」

「私はマジシャンなのです。生を死に変える」

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