4. 吸い込まれる場所
学校の連絡網を次の人に回してしまうと、母さんが起きてきた。「おはよう、雪子」
「おはよ、母さん。今連絡網回したところだよ」
「そう、あらあなたそうめん食べたの?」
「そうだよ」
「朝からそうめんは感心しないわね。もっと栄養あるもの食べなさい。あなた風邪引いてるんだし」
「だってそうめんが食べたかったんだもん!」
「風邪薬は飲んだ?昨日あなた薬局に行ったみたいね。ごめんなさいね、私が買っておけばよかった。熱は下がった?」
「もう!一度に言わないで!風邪薬も飲むし体温も計るよ!あとコップ割っちゃった」
「コップ割っちゃったの?」
「うん」
私は風邪薬を飲むと、体温計を腋に差し込む。私の腋は一昨日からお風呂に入ってないせいか汗ばんでいてちょっと酸っぱい臭いがしていた。
体温を計かりながら私は朝風呂に入ろうとお湯を沸かすことにした。湯沸かし機のスイッチを押すと体温計がピピッと鳴った。体温計を腋から取り出すと体温は38度ちょうどだった。
「38度ちょうど、まだ熱みたいだね」
「お風呂もあまりゆっくり入らないで、直ぐに出ちゃいなさいよ」
「いやよ、ちょっと今私体臭いからじっくり入るよ」
「シャワーだけにしときなさい」母さんはそう言って洗面所に顔を洗いに行った。
お風呂が沸いたと機械が呼ぶので私はお風呂場へと行った。パジャマと下着を脱いでしまい、洗濯機にそれらをポイと投げ入れると浴室に入った。
シャワーを浴びていると、シャワー音に雨音が遮られ優しい気分になる。体をシャワーで軽く汗を流してしまうと湯舟につかった。
遠くでウグイスの鳴き声が聞こえた。
お風呂から出てしまうと私は暇なのでパソコンで今朝電話があったゴールデンマジシャンについて調べてみることにした。
パパの書斎に入る。ちなみに私は母のことは母さんと呼んでいて、父のことはパパと呼んでいる。パパの書斎はバニラタバコの匂いがしていた。
パパのいつも吸っているタバコの銘柄はバニラ系が多い。私は未成年なのでもちろん吸わないが、パパはタバコが大好きでよく教えられる。
パソコンチェアに座りPCを起動する。ファンの音がして直ぐにPCは点く。
インターネットでゴールデンマジシャンと調べてみた。検索結果は0件だった。
「一体なんなんだろう」ふと私はメールボックスを開いてみる。
未読メールが一件だけあった。題はグランドゴールデンマジシャンにお越しくださいとあった。
それをクリックして中身を開いてみる。そこにはあの地下の無人の場所があった。
ここに何があると言うのだろうか。
メールにはただ画像だけで、他には何も書かれていない。
「もしかして、ストーカー?」私は紫色の髪の毛をいじくりながら思わずそう言ってしまった。「お越しくださいってどういうこと?」
しかしながら私はこの場所に妙に惹かれているようであった。私は自室に入りパジャマから外着に着替えてしまうと、この前行った場所に向かうことに覚悟を決めた。
母さんに見つからないように玄関をくぐる。
傘立てから傘を出して外に出る。
庭を出ると地面の雨でできた水は足首のあたりまであった。
とんでもない大雨だった。ゆっくりゆっくり私はグランドゴールデンマジシャンに向かう。
「そういえば、私風邪を引いていたんだった」38度の熱でそう考える。
大雨の通りは誰も人気がなかった。
私一人ぼっちの街に紛れ込んだように思えて私は悲しくなる。また涙が出そうになったが、いちいち泣いていたって何も変わらない。