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10. 37.5度

 私は朝食に目玉焼きを挟んだトーストを食べていた。目玉焼きには塩コショウで味付けしてある。雨音がやわらかく室内に入ってくる。

「雨で学校が沈没したってさ、さっきニュースでやってた」

「嘘!?私の学校?」

「嘘よ、雪子。沈没するわけないじゃない。風邪は治ったの?」

「うーん、体温計で計ってみる。でも本当に沈没するかもね、こんな雨じゃ」雨が降り始めてもう数日が経過していた。いい加減私はこの雨音に慣れると同時にうんざりしていた。でも私はそんな雨音が好きだった。気がおかしくなりそうだけど。

 私は朝食を摂り終えると体温計を出して腋に差し込む。私は待っている間、朝のホットコーヒーを片手で飲む。それで口の中にあるトーストの破片を流し込んでしまうと私の胸がムズムズとしてきた。痒かったので私はブラの下に手をつっこんで掻いているとパパが起きてきた。

「おはよう、雪子、母さん」

「おっはー、パパ」

「おはよう、パパ」

 体温計がピピッと鳴る。体温は37.5度だった。

「まだちょっと熱があるみたい」

「学校には電話しとくからまだ休んでおきなさい」

「はーい、つまんないの」

 

 気が付くとゴールデンマジシャンの室内にいた。オレンジ色の太陽、否、丸いランプが辺りに光を放っている。私をその匂いを嗅ぐように光に近づき鼻先をランプに触れさせた。

 私の鼻先は熱をランプからもらい徐々に徐々に熱を放ち始める。なんだか眠りの中のようであった。

 私、雪子は死後の世界を旅していた。天国にも霊界にも行けずにたださまよっている。いわゆる作品の一つの形態として私は観葉植物のように土に入れられてそこから芽吹いた死という生命を夢の中でクロスしているのだ。ああ、なんて気持ちよいんだ。その室内は柔らかな冷房の風が流れており涼やかに私の素肌に触れる、鼻先がただただ熱い。

 私はそれを続ける。二重、三重、四重の意味で、つまり、熱をもらうこと、冷房で体を冷やすこと、死んでいること。そして生きていること。

 鼻先をランプから離すと後ろにラビットの着ぐるみを着た闇があった。その闇は顔の真ん中でブラックに染まりそこだけ異空いくうへとつながっている。

 私はその異空へと向かってキスするように鼻先をくっつける。

 ディープ・ハナ・キッス。そこに触れた途端、闇が私に侵食した。とりこまれていく私、闇を抜けると私は違う場所に立っていた。そこは王国だった。

 なんの王国かって?それは生命ある人間が知るべきことじゃない?私みたいに死んだ人間が知って良い筈の名前じゃない。名前は要らない、ただそこは王国だった。

「ようこそ、雪子さん。ここはグリーントランス王国です」王国の喧噪の中誰かが私の耳元で不躾にそう言った。やぁね、名前なんて必要ないじゃない、私はそう思った。

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