8:勝利
ジェームズ大尉はフォッカー二機のうち一機を撃墜したようで、今は残りの一機との格闘戦に移行している。
私はジェームズ大尉に構わずにゴータ爆撃機を撃墜することを専念する。
ゴータの銃座は私の機体を視認したようで、二機が続けて銃撃を加えてくる。
下方に移動しながら銃座からの銃弾の直撃を受けないように回避行動をとりながら加速する。
「機体下方は死角になるからな…ここからでは攻撃できまい!!!」
下りで得た加速を使って一気に上昇し後方のゴータの爆弾層目掛けて機関銃を放った。
薬莢が機体の後ろにバラバラと落ちていく音を聞きながら、私は燃え上がるゴータの真横を通り過ぎていく。
落ちていくゴータから運よく落下傘で脱出していくドイツ軍のパイロット…。
すれ違った一瞬、ゴーグル越しからでもわかるぐらい金髪で長髪の人だった。
(まさか女性軍人か…?いや、そんなはずはない…きっと見間違いだろう…)
真下は友軍の支配地域だ。
落下傘で脱出して無事に地上に降り立っても捕虜になるしか助かる道はない。
女性の捕虜は集団で性的暴行を受けることが多い故に、その末路は悲惨だ。
長髪の男性であってほしいとその時は思った。
敵のゴータ重爆撃機の残りが一機になった途端に、護衛のフォッカーと共に進路を変えて苦し紛れの逃走を図った。
小判鮫のようにゴータ重爆撃機にくっついていたフォッカーが二機、ゴータ重爆撃機から離れて私に向かって攻撃をしようとしてきた。
「くっ、ちょこまかと!!!」
ルイス軽機関銃の残弾はおよそ20発前後…二機相手にしていたらゴータ重爆撃機を取り逃がしてしまう。
護衛機に目もくれずに残りの銃弾をゴータ重爆撃機目掛けて放った。
銃座を貫くように弾丸が貫通して、銃座に座っていた者が血を吹いて機体から転げ落ちていく。
弾薬庫には届かなかったが、ゴータ重爆撃機の高度が下がっていく。
機体はみるみる降下していき、ついにゴータ重爆撃機は炎を吐き出して大量の黒煙を噴き上げた。
もはやこれまでと思いパイロット二名が落下傘で脱出するのを確認した。
先程脱出したパイロットとは違い、二人の髪の毛までは分からない。
やはり、先程のパイロットは女性だったか…。
護衛対象であったゴータ重爆撃機が全機撃墜されたことをうけて、私を狙っていたフォッカー二機は逃げるように戦域を離脱していく。
それと同時にジェームズ大尉も戻ってきた。
機体の右翼には銃弾を受けた生々しい傷が残っていたが、本人は手を振って無事であると回光通信機越しに報告を入れてくる。
『よくやったぞ浅川!!!すごいじゃないか!!!』
『ありがとうございます大尉、そちらもご無事のようで何よりです』
『な~に、俺の身体はこの通りピンピンしているぜ!!!さて、基地に戻ろう!!今夜はパーッと飲むぞ!!!』
はしゃいでいる大尉を横目に、夕暮れ時の空を眺めながら私はジェームズ大尉と共にプレリー空軍基地に戻った。
着陸と同時に基地は歓声に包まれている。
加藤飛行隊長は頭をぐりぐりしてきて「よくやったぞ!!!」と何度も大声で褒め称えていた。
この日、私は敵戦闘機7機、敵爆撃機3機の合計10機を撃墜した。
そして、エースパイロットの称号を得ることになった。