6:スクランブル
目まぐるしく一日が終わろうとしていた。
夕暮れ時になっても、基地内ではパイロットや整備兵が機体の調整に追われていた。
第106戦闘飛行隊のメンバーの大半がまだバンカーに残って整備を続けている。
私の機体は加藤飛行隊長の命令で整備兵が機体の調整を行ってくれていたようだ。
とても有り難い。
改めて今後の予定をどうするか検討しなくてはならない。
ノートに鉛筆で殴り書くように航空戦術を書き込んでいる時に、突然耳を突くぐらいのけたたましくサイレンが鳴った。
「敵襲!!!敵襲!!!敵爆撃機が当基地に接近中!!!総員、戦闘態勢に入れ!!!繰り返す、敵爆撃機が当基地に接近中!!!」
航空自衛隊の時に培ったスクランブル発進の時の記憶が蘇り、手早く予備の飛行服に着替えるとバンカーに走っていく。
時間との勝負だ。
航空自衛隊ではスクランブル発進のサイレンが鳴ればすぐに出撃できるように、当直は飛行服を身につけたまま待機を命じられており、一度サイレンが鳴れば猛ダッシュで戦闘機が置かれているバンカーまで走って向かう。
バンカーに到着すると、整備兵やパイロットが慌ただしく動いていた。
対空砲要員は持ち場についているが、まだ整備が完了していないパイロットは機体を動かすことができない。
整備が完了していたのは、私の機体とジェームズ大尉の機体だけのようだ。
加藤飛行隊長は、自分の機体がまだ整備が終わっていないことを嘆いていた。
「先の戦闘で機体に無茶を掛けたからな…修理がまだの機体を飛ばすわけにもいかん…すまない浅川!!お前とジェームズ大尉の二人で敵機を迎撃してくれ!」
「ということは…動かせる機体は2機だけですか?!」
「そうだ、飛べる機体はお前とジェームズ大尉の機体だけだ、敵機はドイツ軍のゴータ重爆撃機4機と護衛機のフォッカー8機だ!直ぐに出撃してくれ!弾薬と燃料は補充が完了している、優先的にゴータを破壊するように!!」
防空網が突破されたとはいえ、敵の部隊は少数だ。
恐らく前線で攻勢をかけて対空が手薄になったのを狙ったのだろう。
この基地の滑走路か司令塔を破壊することは、前線基地の一つを無力化する事に等しい。
そうすればドイツ軍は空の戦いを優位に立つことができる。
ここから20キロ離れたティジー航空基地は既に爆撃機の大編隊によって空爆を受けて壊滅状態に陥っているということも加藤飛行隊長から聞かされた。
その分、前線にいる地上の友軍兵士は空と陸から猛攻を喰らうことを意味する。
「やるしかないか…では、加藤飛行隊長、行って参ります」
「頼むぞ…それから、ジェームズ大尉の指示に従って行動するように…」
「分かっております、では…出撃して参ります」
ジェームズ大尉のソッピース キャメル戦闘機が爆音を立てて離陸すると同時に、私も機体の加速レバーを引いて大空へと機体を羽ばたかせた。
ここにきて初めてのスクランブル発進となる。
某戦闘機ゲームシリーズの最初のミッションは毎回爆撃機迎撃してますよね(5を除いて)