5:教練
まず、私が最初に行ったのは下方から攻撃してきた敵機の迎撃についてであった。
敵機が下方から隣の機体を破壊し、そのまま円を描くように旋回していったのに対抗する為に、わざと機体を斜めに傾けて右側面を突く体制をとった経緯を説明する。
ドイツ軍の戦闘機は旋回しながらこちら側に再度攻撃をしかけようとしていた。
その時、私の機体は敵側に見えない位置にいたのだ。
主翼の上の翼に隠れているので相手の視界がまだ捉えていない状態、この状態から相手側の不意を突いて攻撃ができた。
だが、相手側から見えない位置にいたとしても素早く反撃ができるのかといえばそうではない。
アナログの照準器しかないこの時代、コンピューターが自動的に速度や高度、敵味方の識別を示すヘッドアップディスプレイ(HUD)や頭部に装着して情報を確認するヘッドマウントディスプレイ(HMD)等の現代的な表示機能は無い。
残弾表示や機体のダメージ箇所を表示する警告灯も無い。
あるとすれば燃料計と速度計ぐらいのものだろう。
予測撃ちをするにしてもある程度相手の機体がどの位置に来るか予想しなくてはならない。
今回は敵側が自機の存在に気が付いていないのと、正面から攻撃するまでに距離と速度を計算して15秒ほど時間的余裕があることを私は直感で判断できたのだ。
気が付いた瞬間に、機体を傾けて装甲の厚い主翼部分ではなく、複葉機の構造上装甲が薄いエンジンないし燃料タンクの部分へ攻撃を仕掛けたのだ。
攻撃の読みは成功し、再度攻撃をしかけようとしてきたドイツ軍機を撃墜することができたのだ。
そして次に現れた12機の敵機に対する迎撃だが…。
先程の奇襲攻撃で面を喰らった飛行隊は敵の襲撃にあって混乱状態であった。
19対12、数の上ではこちらが優位だったがドイツ軍機は慣れた動きでこちらの飛行隊の動きをけん制し、果敢に攻撃を繰り返していた。
(敵はやり慣れたベテランパイロットの部隊か…)
とすれば、敵側がやり慣れているであろう格闘戦闘は極力避けたい。
そこで旧軍の海軍パイロットが得意とした一撃離脱戦法を実施した。
追い詰めているのでこちらに気が付いていない敵機を狙い撃ちにするように撃墜する。
一機ずつ確実に仕留める。
二機共同で友軍機の戦闘機が追い詰められていたので、二機同時に撃墜も行った。
目の前の敵を注視するあまりにこちらの存在に気が付いていない。
こうして確実に追い詰めた結果、12機のドイツ軍戦闘機はたちまち半減し、6機前後になったところで逃走を図った。
それを逃すまいと形成を立て直した友軍機が追撃して全機を撃墜したのであった。
これが今回の空戦の結果である。
ひとしきり黒板を使った説明を終えると、司令官は紙に私の説明を書き終えた。
「大変御苦労であった…分かりやすい説明と解説だったぞ。今日は疲れているだろう、下がってよろしい」
「ハッ、失礼いたします」
説明を十分に行なえたとは思うが、あれで理解してくれれば有り難い。
第一次世界大戦ではまだ航空戦術は発展途上のままだ。
余談であるが、私がこのとき司令官に教えた一撃離脱戦法が後の世界まで変えてしまう出来事になるとはこの時は思いもしなかった。