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37:さらば大空よ、ようこそ帝都で(終)

………

……



一瞬で勝負は決した。



私はレッドバロンとの戦いに勝った。

彼の放った機関銃は機体右翼を撃ち抜いたが、肝心のコックピットやエンジン部分への攻撃を外した。

一方で私の放った機関銃は3発ほどコックピットとエンジン部分に命中したのをこの目で確認する。



そして彼の機体はすれ違いざまに高度を落としていき、パリの国立劇場の屋上に落下。レッドバロンの異名で敵味方の間で有名であったマンフレート・フォン・リヒトホーフェンは、私が放った機関銃によって左胸を撃ち抜かれて亡くなった状態で発見された。



痛みを堪えてプレリー空軍基地に帰還すると、大勢の連合国軍の軍人が私を取り囲んで大喜びで叫んでいた。

ドイツ軍の中でも連合国軍では名の知れたエースパイロットを撃墜したことを知ったことで、人種間を問わず皆が抱き合ってドイツ軍のパリ撤退とドイツ本国が連合国に対して占領地の返還を含めた講和を受け入れるとの申し出を受諾したとのニュースを聞いて喜んでいる。

日本兵の整備兵がイギリス陸軍航空隊の整備兵と共に泣きながらその勝利を喜んでいるのを見て微笑ましくなった。



だが、私がコックピットから降りて血塗れの左足を見ると周囲の空気は一変した。

私の機体を整備してくれている整備班の連中がすっ飛んできて大丈夫ですかと駆け寄ってきた。

医療班を寄越してほしいと言うと、大声で医療班を呼んでくるようにと慌ただしくなる。



直ぐに医療班によって担架で運ばれた。

マルガレーテ少尉も私の容態が心配のようで一緒に付いてくると言ってきたほどだ。

心配性である彼女の事だ、私の血を使ってくれと叫んでいるのが聞こえるが、意識がだんだんと無くなっていくのが実感してくる。

私は死ぬのかどうかは定かではないが、もう一度生まれ変わるのであれば戦争の無い時代が良いなと思う。




………

……




そうそう転生なんてのは起こるはずもない。

目が覚めると私は軍病院のベッドで入院していた。

一面白で塗られた見知らぬ天井、幸い助かったようだとほっとしたのも束の間、私は一つの違和感に気が付く。



左足が妙に圧迫されている感覚があるのだ…。

それも、誰かに少しだけ強く押されているような感じに…。



恐る恐る掛けられていた毛布をめくると、そこには傷口があった太股の手前の部分でバッサリと切断された左足があった。

不格好というか、足が()()()()()()()()()という奇妙な感覚だ…。

以前テレビを見た時に、事故で手足を無くした人が無いはずの手足の感覚があるという話を、うろ覚えだがしていたような気がする。

それが今の感覚なのかもしれない。



私はレッドバロンを撃墜したことでエースの称号を得ることができた。

だが、その代償として撃ちぬかれた左足の切断という手痛いものであった。

第二次世界大戦では義足のエースパイロットが何人か存在したが、それでも復帰には血のにじむ努力を要していた。

第一次世界大戦が終結した現在、私を必要とする場所は今のヨーロッパには無い。

日本に帰国し、退役して戦傷軍人として年金を貰いながら静かに暮らすのも悪くないだろう。



その後、私の身体に合う木製の義足を製作してもらい、リハビリをしながら3か月が過ぎた。

季節は夏から秋に代わり、第一次世界大戦の講和条約を話し合う会議がイギリスのロンドンで開かれた。



ロンドンでの講和条約で盛り込まれたのは、ドイツ帝国の連合国占領地地域の放棄、ドイツ軍によるパリ攻撃の際に使用した毒ガス攻撃による民間人の死傷者への賠償請求、中央同盟国が所有する重武装飛行船の引き渡し、毒ガスの備蓄量の制限、治安情勢が悪化しているオスマン帝国への連合国軍の治安維持部隊の駐留許可、オーストリア・ハンガリー帝国の領土をイタリア王国に割譲などが決定された。



その中でも日本帝国はドイツ帝国領の青島、南洋諸島の割譲を行い。その中でも青島を香港・上海に次ぐアジア貿易拠点都市にすることを宣言し、同時に南洋諸島を統括する南洋省の設置を来年5月までに開設するようだ。

また青島にアジア史上最大の空港と湾港を建設するということも盛り込まれていたのだ。

どうやら史実よりもアジア地域との協調性を重視する姿勢を生み出しているようで、その事は欧州では高く評価されているようだ。



その中でも気がかりなのはアメリカが第一次世界大戦に参戦してこなかったことだ。

史実ではドイツ帝国海軍の無制限潜水艦作戦によってアメリカからイギリスに向かっていたルシタニア号が撃沈され、多くのアメリカ人が犠牲になったことを受けて第一次世界大戦にアメリカが参戦してきた。

しかしこの世界ではドイツ帝国は無制限潜水艦作戦を実行に移さなかったことによってアメリカの参戦を免れている。

ドイツ帝国側にも先見の明が見える人がいたということだろうか?



中央同盟国はロンドン条約によって史実よりは幾分かマシな講和条約を結ぶことが出来たようだ。

フランス側もドイツがハイパーインフレーションを起こすほどの莫大な賠償請求は行わなかったが、それでも毒ガス攻撃によって死傷した民間人への補償と破壊されたパリ市街地の復興のために198億金マルクを15年かけて支払うように命じたそうだ。



一通りの国家同士の話し合いが終わり、後は欧州に派遣された日本帝国軍が日本に帰国する時がやってきたようだ。

プレリー空軍基地で世話になった連合国軍将兵の皆とマジノ少将に礼を言って基地を去った。

マルガレーテ少尉は既にフランス軍を退役して、一足先にビジネスを始めるために日本に向かっていったようだ。



………

……



1918年1月20日、私はマルセイユから地中海を経由して日本に帰国した。

空を飛べなくなってしまった。

帰国してから私は空軍省に呼び出されて、戦傷を理由に退役する代わりに三つの勲章と傷痍軍人として最終階級時の少尉の給料の三分の二にあたる150円(現代の価値にしておよそ21万円)が毎月傷痍年金として支給されることを約束された。



戦傷者としてはかなりいい金額を貰っている、このお金で長野県か岐阜県あたりの片田舎に引っ越して静かに暮らそうかと思っていた時であった。

空軍省のロビーから出ようとした時に後ろから声を掛けられた。



「貴方が浅川裕一郎さんですかな?」



声に振り返るとビシッと黒のスーツで見なりと整えている男性が立っていた。

その隣にはマルガレーテ少尉も一緒にいたのだ。

マルガレーテ少尉は私と目線を合わせるとお久しぶりですと言ってお辞儀をしてきた。



「初めまして、お初にお目にかかります…私は変則株式会社社長の阿南豊一郎と申します…欧州での活躍は私の方でも耳にしております。マルガレーテさんからも貴方のことについてお聞きしました。貴方の戦闘機のカラーリングを見てピンと来るところがありましたので…お時間があるようでしたら是非とも私の会社にお越しくださってほしいのですが…お時間はよろしいですかな?」



「ええ、時間のほうは大丈夫ですよ…」



「おお、それは良かった!では長話も何ですのでお車を用意しております、そちらに乗ってからお話をしましょう」



空軍省の前に停車しているアメリカ製の高級車が停車しており、運転手がドアを開けて阿南さんとマルガレーテ少尉、そして私が乗るのを確認するとドアを閉めて、車を発車させる。

その道中で阿南さんから重大な話を切り出された。



「さて、人払いも済みました…マルガレーテさんも今から話すお話を他言無用に願います………浅川さん、もしかして貴方は航空自衛隊という組織を知っているのではありませんかな?」



「…?!阿南さん…貴方は航空自衛隊を知っているのですか?!」



「ええ、勿論ですとも…私は()()()()()()()()は百里基地近くの食品会社で働いておりました。あの時私は新商品のガムを作っている途中に激しい頭痛に襲われて意識を失いました…気が付いたらこの世界で同姓同名の10歳の少年に転生していたのです…」



彼も転生者だったのか…。

そして話を聞けば苦学しながらも弱年16歳で十店舗以上の商店のオーナーとなり、20歳の時にあの有名な発明家であるテスラを引き抜いて変則株式会社を設立したという。

そして現在では航空や飲食など様々な事業に参入して日本六大財閥の一つになるまでに成長するに至ったそうだ。

マルガレーテ少尉は現在実業家として、偶々訪れていた先で阿南さんと知り合いになって、その際に私の話をしたという。



「私の場合は定年退職後の登山中に落石に巻き込まれて…この世界に転生してきました…定年退職前は元航空自衛隊のパイロットを長年勤めておりました…」



「おお…そうでしたか…では、航空戦術などに関してはかなり詳しいとお見受けします。わが社は外国の戦闘機をライセンス生産しておりますが…いずれは国産の戦闘機などを開発していくつもりでございます。その際にアドバイザーとして浅川さんの力が必要になってきます、これからあと20年後に起こるであろう()()()()()()()に備えて、わが国は太平洋戦争の時のように慢心して戦う事態になれば取り返しのつかないしっぺ返しを食らうことになります。そうならない為にも、英国やフランスとは友好的な関係を保ち、アジア地域の平和を守る大国として…万が一外交が失敗して列強各国との戦争に備えて空の防衛を疎かにしてはならないと思っております…私の祖父は太平洋戦争末期に長崎におりまして…そこで原爆にやられて1年で急性白血病を患って亡くなりました…防空網を常に維持できる強力な空軍力こそがこの国を守る最大の切り札となるのは明白です!!」



会話の後半につれて阿南さんの口調も力のこもったものになっていく。

太平洋戦争末期は国内の制空権は連合国軍によって支配され、B-29による東京大空襲をはじめとする国内主要都市への爆撃で、高高度爆撃による防衛は不可能なものになっていったのは歴史の授業で誰もが知っていることだ…。

一旦呼吸を落ち着かせた後で阿南さんは話を続ける。



「浅川さん、私はこれまでに食品に関する知識やテスラ博士の発明を通じて日露戦争や第一次世界大戦で大きな変化をもたらすことに成功しました…航空機による新たな戦術やインスタントラーメンの配布によって日本軍の戦傷者や戦死者の数は大幅に減らすことはできましたが、戦争を回避することはできませんでした…恐らく、歴史の修正力という奴が働いているのかもしれません…その修正力があるとすれば第二次世界大戦もあと20年で起こることが予想されます。その20年の間に国内のインフラと工業力を整えて、防空網ならびに制空権の重要性を陸海軍に訴えていかねばなりません。20年は長いようで短い…もし転生者で尚且つ軍事知識に詳しい浅川さんが来てくれれば私としても本当に助かります、どうかこの通りです!わが社…いえ、この日本を救ってほしいのです!!」



阿南さんは深々と頭を下げた。

あと20年で起こるであろう第二次世界大戦…。

阻止できなくても制空権を常に確保し優勢を保つことができる空軍力…。

あの太平洋戦争の悲劇を繰り返さないためにも、私がこうしてもう一人の転生者に出会えたことは運命なのかもしれない。私は阿南さんに、変則株式会社に行くことを伝えると泣いてありがとうございますと返答してくれた。



本当の戦いはこれからのようだ。

陸海軍を説得してあの悲劇を回避することが今の私に課せられた使命なのかもしれない。

私は転生者として…元航空自衛官として…元エースパイロットとしてこの国を守るべく、立ち上がることを決めた。

ひとまずこの話を持って本編を終了させていただくことになります。

説明不足やら文章力が無く、本当に申し訳なかったですが、様々な人から応援のメッセージを貰ってとても嬉しかったです。


全年齢向けの小説の次回作として、阿南豊一郎と浅川裕一郎の二人の転生者による第二次世界大戦の架空戦記編を描くつもりです。遅くても9月ぐらいから連載を始めようと思いますので、これからもよろしくお願いします。

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