35:ラストジョブ(中)
今日で東日本大震災から7年の歳月が経ちました。
当時、私の友人でゲームが好きだった人がいました。
私の相談相手で色んな雑談をしていくうちに彼とは良き友人でありました。
春休みに遊びに行って一緒に某アーケードゲームを一緒にしようと約束しました。
ですが、その約束は敵いませんでした。
彼は震災直後に家具の下敷きになって足を負傷して身動きが取れなくなった後に襲ってきた津波に呑まれて亡くなりました。
直前まで携帯で知り合いに二階に避難して傷の手当をしておくと連絡を取っていたそうですが、二階建ての彼の家を丸ごと津波が飲み込んで震災から3週間後に遺体となって発見されたと知り合いの方から連絡を貰いました。
彼とアーケードゲームをする約束は永遠に果たせなくなってしまいました。
震災の日がくるとそのことを思い出してしまいます。
それが私にとってとても辛いです…
ドイツ軍はパリ市街地の中心部に立てこもって戦闘を続けている模様であった。
黒煙を噴き上げているトラック。
積み上げられたバリケードがFT-17戦車によって踏みつぶされて、乗り越えていく。
市街地に近づくにつれて黒煙の量も多くなり、対空砲もひっきりなしに撃ってくる。
ドイツ軍の主力部隊は撤退を始めているようだが、ここが正念場とみて決死の抵抗を試みる軍人が多くいた。
空も例外ではなかった。
「浅川少尉!!!4時の方向から新たに4機…フォッカーです!!!」
「やはりタダではパリを渡さないという決意か…戦闘機や爆撃機も決死の反撃に挑んでくるとはな…!」
ドイツ軍の航空機は圧倒的劣勢であるにも関わらず果敢に反撃を挑んでくる。
一機、また一機と撃墜しても、さらに増援がやってきて押し返そうとする。
増援の部隊の大半は戦闘機に構わずに爆撃機に突っ込んでいくのだ。
太平洋戦争の時の日本軍のような神風特攻隊に近い役割を担っているのかもしれない。
自爆覚悟で突入してくる敵航空機ほど恐ろしいものはない。
命を惜しまずに死を恐れない有人の兵器は心理的にも性能的にも究極の兵器だ。
2機のアルバトロスが爆撃機の護衛機の合間をくぐり抜けてイギリス陸軍航空隊の爆撃機に体当たりを敢行し、機体が爆散する。
そして、有人の戦闘機ではなく無人戦闘機の存在もこの戦いで飛び交っている。
マルガレーテ少尉が試作兵器として扱っていた小型の無人飛行機も導入されているのをこの目で確認した。
「マルガレーテ少尉!!!あれが試作兵器ですか?」
「そうです!!あれよりも一回り大きいです…恐らく地上で操作されているものだと思います!!!」
大きさが通常の航空機よりも小さく、大きなラジコン飛行機のようだ。
見た目は三枚の翼を持っている複葉機だが、これらの小型無人機は地上から操作されて腹に爆薬を仕掛けて動きの鈍い爆撃機に体当たりを行って損害を与えるために作られたものらしい。
まだ第一次世界大戦だというのにUAVが活躍しているなんておかしな話だが、脅威であることには変わりない。
敵戦闘機を排除しつつも、無人機を可能な限り機関銃で排除する。
機関銃が小型飛行機を撃ち抜くとバンと大きな音と共に爆発を起こす。
「動きが殆どないとはいえ、あれが爆撃機にあたると厄介だ…可能な限り潰すぞ!!!」
「はい!!!」
前面の機関銃とマルガレーテ少尉が握っている後座の機関銃で無人航空機を撃墜していく、その最中に弾が切れたので、一旦基地に補給をしに戻る。
何度も繰り返し、気が付けば夕方になっていた。
パリ上空に飛んでいるドイツ軍の無人航空機、有人の戦闘機は数を減らしていた。
パリのエッフェル塔にはフランスの旗が掲げられている。
連合国軍が奪取に成功したのだろう、ドイツ軍の敗北は誰の目から見ても明らかだ。
白旗を掲げている建物もちらほら見受けられる。
「これで我々は勝ったのか…?」
「そうですね…地上のほうもあらかた片付けたみたいですね…」
パリの夕暮れは燃えている。
そして、ドイツ側から9機の黒塗りのフォッカー…その先頭に1機、真紅色に塗装されたフォッカーがこちらにやってきた。
レッドバロン・・・マンフレート・フォン・リヒトホーフェンの機体だ。
パリから離脱する友軍を見逃すために彼らは最後の抵抗を行おうとしている。
「レッドバロンか…こうして戦えるとはな…もっと長く、そしてもっと貴方のことを知りたかったものだ…だが、これも運命かもしれないな、いずれにしても…パリの空で決着を付けよう…」
そして私と彼も互いにこの戦争の幕引きであるラストジョブということか…いや…まだ戦場では2か月も経っていないひよっこの私と、この第一次世界大戦で最もドイツ軍のパイロットとして戦果をあげているだろう正真正銘のエースパイロットであるマンフレート・フォン・リヒトホーフェンが戦場で真っ正面から私は無謀にも戦いに挑む臆病者だ。
第一次世界大戦最後の空中戦が開始された。