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34:ラストジョブ(上)

突然ですが、あと3話ぐらいで一旦物語を終わらせます。

1917年8月1日、史実よりも一年近く早まって停戦の兆しが見えてきた。

オスマン帝国が事実上連合国に降伏し、7月17日にオーストリア・ハンガリー帝国も停戦の意向を示している。

この第一次世界大戦は史実と同じように連合国の勝利でもうすぐ終わる。

私は一気に位を駆け上がったが、それでも少尉どまりで済みそうだ。

もうちょっとは出世したいものだなと思ったが、一等兵が少尉にまで昇格できれば大したものだ。



さて、第一次世界大戦でその猛威を奮ったドイツ軍はすでにじりじりとドイツ本国に後退を始めている。

日本帝国から派遣された補充パイロットと機体がフランス戦線に到着してから戦局は一気に連合国有利となっている。

あのヴェルトハイム級軍用飛行船は日本帝国陸軍が開発したという17式墳式推進弾…ロケット弾による波状攻撃で1隻撃墜することに成功したそうだ。

さらに新型対空砲でもう1隻を撃墜したという報告も上がってきている。

ドイツ軍は切り札を失いながらもまだまだ戦う意志を見せている。

それはパリがまだ健在だからである。



連合国軍はドイツ軍の士気を完全に折るためにパリ解放のために30万人もの陸軍兵士と400台以上もの戦車、そして700機に及ぶ戦闘機や爆撃機で一気に攻略する方針を固めた。

それが今日…8月1日だ。

私とマルガレーテ少尉は第106戦闘飛行隊から帝国空軍第202飛行師団に編成された。

飛行隊長は加藤飛行隊長よりも眉毛が太く、一昔前の日本男子らしい顔立ちをしている菊池大尉だ。

そして私は序列で3番目に配備された…。



「いよいよ出撃ですね浅川少尉…」



マルガレーテ少尉はこの戦いが終わってドイツ軍が講和を行えば、軍を退役するのだと昨日飲み明かしたときに語っていた。

すでにオスマン帝国、オーストリア・ハンガリー帝国が停戦した現在、残るはドイツ帝国のみだ。

ドイツ人である彼女は再びドイツに戻るつもりはないと答えていた。

すでに家族には破門され、軍からは存在を抹消されてしまった身だ。

アジアに渡って実業家として生きていこうと思うと語っている彼女を応援してあげた。

君なら大丈夫だと。



「そうですねマルガレーテ少尉…まだ数か月も経っていないのに…あっという間に変わってしまいましたね…」



「ええ…もう、この景色を見るのは最後なのかもしれないですね…浅川少尉と一緒に飛べるのが今日で最後になると思います…」



「…マルガレーテ少尉…」



最後のフライトか…ラストジョブとか最後の出撃とか色々と言い方はあるかもしれないが、生きて帰ってこよう。

未来の実業家を死なせる訳にはいかないからな。



「お互い、必ず生きて帰りましょう…もし、マルガレーテ少尉が軍を退役して実業家になるのであれば、最後になるという言葉は使わないようにしましょう。私達は()()このプレリー空軍基地に帰還するのですから…」



「すいません、少々出過ぎたことを言ってしまって…」



「いえ、いいんですよ…ただ、ドイツ軍はパリで塹壕を掘って徹底抗戦を構えているそうなので気を引き締めて任務に臨みましょう…では、そろそろ行きますよ」



「よーし!!!全員よーく聞け!!!」



馬鹿でかい大声が唸っているエンジンよりも響き渡る。

声の主は菊池大尉だ。

彼は今回のパリ解放作戦で重要なことを述べた。



『敵を恐れるな』



『地上の大部隊がすでにパリ市内に突入しているので、地上部隊の援護と敵航空機の破壊に専念しろ』



『機体がやられたら直ぐに引き返すか落下傘で脱出するように』



この三つを重点的に守るように指示を受けた。

そして、プレリー空軍基地を順々に離陸していく。

空を覆いつくような航空機の大群。

まるでイナゴの大移動のようだ…連合国軍の半分以上の航空機がパリ解放に参加しているだけあって、その数は桁違いだ。



ドイツ軍が西部戦線で配備しているであろう航空機の数は多く見積もっても300機前後、パリ防衛に200機防空任務に当たっているにしても数の劣勢は明らかだ。

それでもドイツ軍は頑なに抵抗を続けているようだ。

抵抗を終わらせるべきだろう。

エッフェル塔は地上80メートルより上の部分が破壊されて倒壊しているようだが、このエッフェル塔を奪還しフランスの旗を掲げればフランス軍はパリ中心部を奪還したことを示すことができる。



「終わらせよう、この戦争に…」



私は操縦桿を握って周囲の航空機と共にパリへと向かっていった…。

朝焼けと共に燃え上がるパリのかつての美しさが破壊された街並みを見ながら…。

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