三人称視点1:5機撃墜勲章
三人称視点に切り替えることがありますのでご了承ください
●………プレリー空軍基地 基地司令部………●
「いや、本当にその情報は確かなのか?混戦特有の見間違いではないのかね?」
フランス空軍プレリー空軍基地の最高司令官、モーリス・ド・マジノ少将はイギリス陸軍航空隊のベテランパイロット、ジェームズ・マッキー大尉とその隣にいる日本空軍第106戦闘飛行隊隊長、加藤上等飛行兵曹から今回の空戦の話を聞いて困惑していた。
彼らによれば連合国軍の最前線であるパリ近郊のエヴリー上空で、爆撃機部隊の護衛が完了し基地に帰還する途中で安全空域であるロアール川付近でドイツ軍の戦闘機による奇襲襲撃を受けた。
下は雲が立ち込めており、突然の奇襲攻撃によって日本空軍の戦闘機1機が撃墜され生死不明に、さらに12機の戦闘機部隊が襲い掛かり、ベテランパイロットであるジェームズ大尉も突然の奇襲攻撃によって部隊の再編が出来なくなり、混戦状態になった。
ジェームズ大尉の後ろも敵のドイツ軍の戦闘機が1機真後ろに張り付いてきた。
もはや絶体絶命…死を覚悟したその時だった。
機関銃によって切り裂かれる機体の音と共に、ジェームズ大尉の後ろにいたドイツ軍の戦闘機が火を噴いて墜落していった。
振り向くと一機の日の丸が描かれた戦闘機が明らかに他の戦闘機とは一線を画す動きをしながら一機、一機確実に正確な射撃で仕留めたと力強く言った。
そのパイロットについて加藤上等飛行兵曹が証言を行った。
パイロットの名前は浅川裕一郎、先月日本空軍から欧州戦線に派遣されて基地に配属されたばかりの新米パイロットだった。
加藤上等飛行兵曹によれば不器用な上に何をやっても駄目で、飛行機の操縦すら編隊飛行がやっとの新米パイロットだったと頭を抱えてるように言う。
どうしてそんなやつを派遣してきたのかは分からないとまで語ったほどであった。
しかし、あの空戦で浅川裕一郎は空戦直前までの記憶が失った代わりに、人が変わったように今までに見たことがない操縦をしてドイツ軍の戦闘機を一人で6機も撃墜してしまったとモーリス少将に言った。
「彼は三流もいいとこのダメダメなパイロットでした…ですが、あの飛び方といい戦闘といい…俺達が今までに経験したことのない戦術を駆使してドイツ軍の戦闘機をたった一機で防ぎました。彼のおかげで俺はこうして少将閣下と話すことができるのです…それぐらいに彼の腕が信じられないような動きで敵機を撃滅したのです…」
「敵は我々の部隊より数では劣っていましたが、質ではドイツ軍のパイロットのほうが圧倒的に上でした…彼がいなかったら私はあの時死んでいたでしょう…彼は私を助けたばかりでなく、混乱状態であった我が隊を一人で持ち直すほどの力を彼は秘めているのです。彼は間違いなく”エース”の称号に相応しいパイロットであると私が保証いたします」
ジェームズ大尉は迫真の眼差しでモーリス少将に伝える。
モーリス少将はその眼差しを見て、普段はひょうきんな顔をしているジェームズ大尉がいつになく真剣な表情をしていることに驚き、そのパイロットがどんな人物なのか益々興味が湧いてくるようになった。
「今…その浅川一等飛行士はどこにいるのかね?」
「視力・聴力検査を終えた頃だと思いますので恐らく宿舎のほうにいると思います」
「彼に興味が湧いてきたよ…ジェームズ大尉がそこまで太鼓判を押すとなれば一度この目で見てみないとな…加藤上等飛行兵曹、彼を連れてきてくれるかね?」
「ハッ、只今すぐに!!」
加藤上等飛行兵曹は一旦司令室を出て、急ぎ足で浅川裕一郎がいる宿舎へと向かっていった。