表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/46

三人称視点7:ライジングサン(下)

「カムナック」「クロンベリー」から放たれた76ミリ徹甲弾がヴェルトハイム級軍用飛行船に命中し、炸裂すると同時にヴェルトハイム級軍用飛行船は一瞬にして炎に包まれた。

それまで、戦艦の高射角度に入らないことを理由に陸戦だけでなく海戦でもその猛威を奮った空中要塞は、あっけなく海面に落下していった。



巨大な空中要塞は鉄骨や装甲板を海に落下させながら落ちていく間に、下にいたドイツ軍の駆逐艦と軽巡洋艦も数隻が巻き込まれて2隻が撃沈、4隻が大破した。

ドイツ軍側は不敗と鉄壁として重宝していた切り札があっけなく撃墜されたことでパニックが生じた。



「おい!!!ハスロッホとヘルムシュタットがやられたぞ!!!我々の切り札が…!!!」



「連合国海軍が束になっても墜ちない飛行船じゃなかったのかよ!!!」



「中将!!ラインハルト中将!!艦隊の指揮を!!!」



艦橋に轟く悲鳴と僚艦からの指示の要請…。

ドイツ海軍の旗艦を担い、全部隊の指揮を執っていたラインハルト中将の顔は蒼白と恐怖で身体が硬直してしまっていた。

ドイツ軍の切り札にしていたヴェルトハイム級軍用飛行船があっけなく2隻の駆逐艦とおもしき小型艦によって一撃で撃墜されたことは、ゴータ重爆撃機による魚雷攻撃以外の航空戦術の援護はなく、海軍は予想以上に苦戦を強いられる戦いになってしまうことを意味していた。



すでに前衛艦隊は多くの損害を出している。潜水艦隊も半数が撃沈されている現在、ドイツ海軍は数の上でも士気の上でも不利に立たされた。

ラインハルト中将は決断しなければならない。

前衛艦隊を犠牲にして主力艦である戦艦を守るべきか…だが、まだこちらの戦艦は損傷を受けていない。連合国軍は戦艦を前方に出して右翼側の戦艦1隻を撃沈することに成功している。

戦艦同士の艦隊決戦に持ち込めばまだ勝機はある。



ラインハルト中将は決断した。

弩級戦艦と準弩級戦艦の半数を中心とした高火力艦隊を前面に突出させ、連合国軍に手痛い一撃を被ることに賭けたのだ。

各主力戦艦に信号を出して突撃を指示して叫んだ。



「くっ、全艦隊に告ぐ…我々は空の切り札を失った…これ以上交戦しても数の上では圧倒的に不利だ…後退するにもいま駆逐艦と軽巡洋艦が反転すれば損害はさらに拡大するだろう………駆逐艦と軽巡洋艦艦隊は魚雷全門発射して後方に退避…我らが突出して囮になる…その隙に他の艦は引き返して兵力を温存させるように………機関全速!!!突出して敵と刺し違えてでも一隻でも多く損害を与えるんだ!!!」



ラインハルト中将の行動は無謀であったが、これ以外に駆逐艦と軽巡洋艦を救う方法は無かった。

ドイツ軍の巨大兵器で連合国軍を悩ませていたヴェルトハイム級軍用飛行船の撃墜は、撃墜される光景を見ていた連合国軍の兵士の士気を大幅に上げることに成功した。

切り札を失ったドイツ海軍は撤退するだろうと誰もがそう思った。



「…!?…ど、ドイツ海軍!!!主力艦が全速力でこちらに向かってきます!!!ドイツ海軍のカイザー級弩級戦艦2隻、ナッサウ級戦艦4隻、ヘルゴラント級戦艦4隻!!ドイッチュラント級準弩級戦艦4隻!!ブラウンシュヴァイク級準弩級戦艦4隻の計18隻です!!」



前面から押し寄せてくるドイツ海軍は海面で燃え上がるヴェルトハイム級軍用飛行船の残骸を押しのけて連合国軍への砲撃を開始した。

反転せずに突進してきたことに動揺した連合国軍は僅かに反応が遅れた。

その結果、初弾の砲撃はドイツ海軍が速かった。



連合国軍の真上からドイツ海軍の砲撃が降り注ぐ。

その凄まじい衝撃はジョン・ジェリコー大将が乗艦しているインヴィンシブルにも伝わり、初弾は幸運にもインヴィンシブルには直撃しなかった。

だが、他の艦への被害は甚大であった。



「各艦の被害状況を知らせ!!」



「我が軍は弩級戦艦「ネプチューン」大破!!!第一砲塔と第二砲塔が爆発を起こして炎上中!「シュパーブ」「テメレーア」も砲撃の直撃を受けて被害甚大!!」



「フランス海軍戦艦ジャン・バール被弾!!艦橋に命中し艦長戦死!!!準弩級戦艦「コンドルセ」「ヴェルニョー」大破!!コンドルセは弾薬庫に誘爆して大規模な火災発生!!」



「日本海軍、弩級戦艦「比叡」大破!!「榛名」は第二砲塔を損傷、砲塔の旋回が困難になったとのことです!」



初弾で多くの艦艇への被害を出すことに成功したドイツ海軍だが、直ぐに態勢を立て直して連合国軍は総反撃に出た。

途中、ドイツ軍のゴータ重爆撃機による魚雷攻撃が行われたが、駆逐艦3隻を撃破するに留まっている。

主砲の撃ちあいで両軍ともに被害は増していったが、時間と共に数が少なくなってきたドイツ海軍が追い込まれていき、一時間でラインハルト中将の乗ったフリードリヒ・デア・グローセも連合国軍の砲撃を受けて大破、黒煙が艦のあちこちから吹き上げており、すでに艦は左に大きく傾斜しており戦闘続行は不可能であった。



フリードリヒ・デア・グローセからドイツ海軍の水兵達が脱出を図っている。

士官も艦から退避するように指示をだしているようだ。

ボートや浮き輪に捕まるように大声で声を掛け合っている。



戦闘中に砲弾が艦橋付近に当たり、その際の衝撃で意識を失い頭部を出血したラインハルト中将はようやく目を覚ます。

血塗れになった包帯を頭に付けているラインハルト中将は、目を覚まして直ぐにこの艦の運命を悟り、傾斜していく艦の中で部下に尋ねた。



「…駆逐艦と軽巡洋艦は海峡から脱出できたか?」



「はい、海峡から離脱できた模様です。随伴の戦艦と準弩級戦艦も同様です」



「そうか…なんとか使命は果たせたというわけか………他の艦はもう沈んだか…」



「はい…我が艦ももうじき沈みます…すでに退艦命令を出しております…ラインハルト中将閣下も脱出してください!!」



だが、ラインハルト中将は脱出するのを拒んだ。

この艦は皇帝陛下から授かったものである。

その艦から逃げることは皇帝陛下への侮辱になりかねないと。

さらに、死んでいった者たちへの示しがつかないと言って艦が沈む最後まで残ると宣告した。

部下に遺書と渡し、部下が退艦したのを確認すると静かに目を閉じる。



(…最後まで私の指示に従ってくれてありがとう…これで連合国軍も少なからぬ損害を与えることが出来た…その分ドイツ帝国は有利に戦況を進めることができるはずだ…この戦争に勝ってくれ…後を頼んだぞ…)



午前10時11分、フリードリヒ・デア・グローセは海峡にゆっくりと沈んでいった。

ドイツ海軍、連合国軍の戦艦も相次いで沈み、スカゲラク海峡は戦艦の漁礁と化した。

この戦いで連合国軍166隻とドイツ軍120隻のうち、連合国軍35隻、ドイツ軍57隻が撃沈破され、損傷艦は連合国軍40隻、ドイツ軍43隻…両軍の戦死者は1万7千人にも及ぶ。

第一次世界大戦の転換期と呼ばれるようになったスカゲラク大海戦は、その後、連合国軍がヴェルトハイム級軍用飛行船が無敵ではないという証明を示すことができた戦いでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ