27:戦線の状況確認
1917年5月8日…。
今日はあいにくの雨だ…。防風窓が無いので雨がコックピットに叩き付けられる。
マルガレーテ少尉とは少しずつだが打ち解けてきているも、今日の初任務が上手くいくかどうかはまだ判らない。
西部戦線の様子は芳しくない上に、今、私とマルガレーテ少尉がいる場所は敵地のど真ん中だからだ。
ドイツ帝国軍の虎の子のヴェルトハイム級軍用飛行船が停泊しているというランス陸軍航空基地への偵察任務を任されたからだ。
偵察仕様機ということで、私とマルガレーテ少尉が搭乗しているこの二式17型戦闘機は軽量化の為にアルミを使用しているので機体は銀色に輝いているカラーリングが特徴的だ。
燃料タンクを拡張し、最大航続距離410キロまで延長させているそうだ。
さらに前方、後部にそれぞれルイス軽機関銃が一丁ずつ取り付けられており、後座には敵地の様子を撮影するための軍用カメラが設置されていた。
携帯可能なカメラは当時としては最先端の技術で、高度1000メートルでもしっかり撮影できる優れものだそうだ。
偵察機としては目立ちやすい機体だが、目立ちにくい青緑色系の塗装ペンキが不足しているのと、塗装したとしても黄色や赤色といった目立つ色しか無いので今回だけはこの塗装で偵察任務を行うことになった。
午前10時ちょうどにプレリー空軍基地を離陸し、現在セザンヌ付近の上空を飛行している。
雨が降っているので視界が悪いが、その分敵に発見されにくいという利点もある。
万が一発見されても雲の中に紛れてやり過ごすという手もある。
「ランス陸軍航空基地まであと20キロだ…マルガレーテ少尉、カメラの準備と後方に敵がいないか確認をお願いします」
「了解です浅川少尉!」
私は計器を見て燃料が十分にあるか確認を行う。
現在まだ3分の2が残っている。
航続距離を考えても十分だろう。
今単騎で敵地の情報収集偵察任務を行っているので、もしかしたら敵と遭遇して最大速で逃げることも考慮しなければならない。
なので、敵地にとどまるというよりは、敵地を通過した際に写真を撮って素早く基地に帰還することを優先する。
ひとまず計器のチェックは問題なかったので、今日までの戦線の様子を写した地図を持ってきて現在位置を確認しているが、ご覧の通りドイツ軍はフランス全土で猛攻を仕掛けている。
特に青紫色のドイツ軍占領地域であるフランス東部方面から、ドイツ帝国軍の重武装軍団が進撃を続けているらしく、戦線からほど近いリヨン防衛の為に救援に駆け付けているイタリア軍との共同防衛線を構築しているようだ。
恐らく、パリを防衛していることによって手薄になった東部方面から侵攻しているものと思われるが、リヨン近郊に要塞が建造されており、その要塞をドイツ帝国軍が攻略できるかは不明だ。
「浅川少尉、8時の方向にドイツ軍の戦闘機部隊を確認しました。数、およそ6…10時の方向に向かっていきます…こちらには気がついていないようです」
「了解しましたマルガレーテ少尉、雨で視界が悪いとはいえ見つかったら大変です、念のため雲の中に入ってやり過ごしますよ」
「了解いたしました、」
マルガレーテ少尉は着実に私をサポートしてくれている。
彼女が敵機を発見してくれた。
私から見て左後方に敵機を発見してくれたようだ。
一旦雲の中に入ってやり過ごしをする。
雲の中は長時間入っていると冷える上に身体に良くない空気を取り込みやすい。
1分ほど潜れば十分だ。
雲の中に入るとマルガレーテ少尉に腕時計で時間を正確に図るように伝える。
60秒間は普段の生活ではあっという間だが、こうした状況下では非常に長く感じる。
ゴーグル越しに伝わってくる冷気に大粒の雨が顔に叩き付けられる。
その間にもマルガレーテ少尉は腕時計の秒針が50秒を過ぎた頃から数字を数え始めた。
「50…51…52…53…54…55…56…57…58…59…60!!!」
60秒が経過したので雲の下に降りる。
雲の下には緑豊かな田園風景が広がっており、その先に更地にされた巨大な飛行場が見えてきた。
その飛行場が目的地であるランス陸軍航空基地だ。
そして、基地には巨大な飛行船が3隻停泊していたのだ。