26:少尉
祖母の母の弟が陸軍大尉だったことが判ったので初投稿です(実話)
「しかしながら…ドイツ軍は女性軍人を動員しているにもかかわらずこの様なことをしているのですか?」
私は女性軍人の扱いを軽視するドイツ軍に怒りたかった。
その思いが高ぶって思わず声に出てしまった。
もし自衛隊でこんなことが起こったら直ぐに女性自衛官による暴動が起こるだろう。
モーリス少将は浅川少尉…落ち着いてといって私を宥めた後、連合国軍でも同様の行為があると呟いたのだ。
「捕虜の女性軍人に対する保護の条約は既にドイツとは締結している、しかしだ…男性に比べて女性の軍人というのは兵士のストレスの捌け口になり易い…特に、捕虜になった女性軍人の自殺率や負傷率が高い…一時的な休戦があって捕虜交換が行われることはあるが…見た目は無傷でも、心に深い傷を負って戦線に復帰できる女性軍人というのは極めて少ないのだよ…そうなって軍をリタイアしてしまうと戦傷者扱いになる。その分戦傷者への補償金やら見舞金が嵩んで、賄いきれないという理由で身体の欠損や戦死したことが確認できた場合を除いて軍籍を外す行為が敵味方問わず後を絶たんのだよ…」
「モーリス少将…それでは女性軍人への差別に当たるではありませんか…国の為に命を尽くした兵士への冒涜になりかねません!………私はそうした行為は反吐が出るぐらいに嫌いです」
「浅川少尉の言いたいことも判る、私も軍部に抗議したことがある。だが、女性軍人の大半は後方支援を行っていることが多いのだ…それに女性軍人への誓約書の件はドイツ軍だけではなく、フランス軍やイギリス軍も同様に行っている…悩ましいことだが、女性もそのことを同意しているので例え遺族や家族が異論を唱えても、それを覆すことはできんのだ…」
モーリス少将は悔しそうに拳を握っている。
彼もこの女性軍人の制度を馬鹿馬鹿しいと嘆いているのだ。
だが、この扱いに関しては上層部の意識を変えないといけないだろう。
これ以上、この話題に突っ込んでいると私の胸の中からこみ上げてくる怒りを抑えきれなくなってしまうかもしれないので、一旦話題を切り上げる。
「…では、彼女の扱いはどうなるのでしょうか?ドイツ軍の軍籍を剥奪したこととなると、階級は少佐ではなくなってしまうのでしょう?」
「うむ、そのことだが…彼女はパリ中央大学に出ていることと、軍事教練の試験を受けた際に好成績だったのだ…学歴、軍事関連の知識も優秀であると踏まえた上で調整した結果、少尉の階級に就くことになったのだ。つまり、浅川少尉と同じ階級だな」
マルガレーテ少尉…か、彼女もそれで納得しているように頷く。
無名の捕虜として劣悪な収容所にいるよりは、フランス軍に寝返ったほうがまだ彼女の人権は保証されるということのようだ…。
「マルガレーテ少尉はフランス軍の援軍として第106戦闘飛行隊の補助役を行うこととなる。まだ少尉になったばかりで色々と大変な時期なのは十分承知しているが、どうか引き受けてほしい…」
モーリス少将は真剣な眼差しで私を見ている。
私は一瞬マルガレーテ少尉のほうを見た。
モーリス少将以上に私を見つめている。
二人からの視線が熱く感じる…。
「無論、引き受けましょう。マルガレーテ少尉…これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします浅川少尉…」
「ありがとう浅川少尉…マルガレーテ少尉を頼む」
「はっ、承知いたしました」
私はその後、モーリス少将と今後の機体の配備予定や後続部隊の到着などを確認して応接室を出た。
マルガレーテ少尉も一緒だ。
マルガレーテ少尉をいつまでも収容所の個室にいさせるわけにはいかん。
宿舎で空いた部屋にマルガレーテ少尉の個室を用意しなければならない。
さて、これから忙しくなるぞ…。