23:被弾
ドイツ軍の武装艇は絶え間なく私目掛けて発砲を繰り返してきた。
幾つもの武装艇から銃弾が飛び交ってくる。
水面ギリギリを高速で飛ばすが、流石に遮蔽物の無い川では私の機体は良い的であった。
ズガガガッ!!!
機体の左翼が被弾して無数の穴が開いた。
それと同時に機体の左側のコントロールが難しくなった。
「ちっ………被弾したか………」
武装艇を避けるように移動しているが、左側に曲がりにくいとなると厄介だ。
対空砲火を掻い潜りながらも武装艇に銃撃を加える。
銃座にいた兵士が弾け飛んで血しぶきをあげながら倒れていく。
一隻の武装艇を沈めたが、他の武装艇はまだまだ沢山いる。
これ以上セーヌ川と飛んでいたら武装艇の餌食になると判断してセーヌ川から離脱した。
セーヌ川から離脱すると、今度は別のドイツ軍機と鉢合わせてしまった。
ドイツ軍機の数は2機、薄緑色の塗装を施したフォッカーだ。
私の機体を発見すると直ぐに攻撃を仕掛けてきた。
「こっちの損傷もお構いなしというわけか………機体が持ってくれることを祈って一か八かこっちも仕掛けてやる!!」
被弾した左翼への負担を減らすために、右翼を使って旋回を開始した。
旋回している私に喰いつくようにフォッカー2機が追撃を行う。
食らいついてきたフォッカーを撃退しなければならない。
ジェームズ大尉と共に爆撃機を迎撃した際に使った戦法は、機体のコンディションが良くないと使用できない。
ましてや左翼を穴だらけにされてしまっては空中分解する恐れがある。
だから私は、敵機が後ろに食らいつくのを確認すると、上昇すると同時に座席への被弾を覚悟の上で急減速を行った。
機体に衝撃が加わる。
後ろからフォッカーの機銃で攻撃を受けた。
ガガガガガガ!!!
機体の装甲がやられていく音が聞こえるも、フォッカー2機は私の機体に衝突しないように手早く避けた。
私はこの瞬間を待っていたのだ!
機体の速度を最大速に上げて二手に分かれたフォッカーのうち私から見て右側のフォッカーに機銃を放った。
コックピットに機銃が命中して、フォッカーはそのまま操縦不能になって地面に墜落する。
もう一機のフォッカーもこちらを向く前に機銃を放って振り向きざまに撃墜に成功した。
戦線を離脱して、機体を見渡すと幾つもの銃痕が残っており、満身創痍であった。
無茶な操縦もさることながら、武装艇に攻撃されて左翼が被弾したのも大きい。
機体の後ろから白煙が噴き上げており、どうにかプレリー空軍基地まで持つかどうか微妙な感じだ。
「…頼む、プレリー空軍基地まで持ってくれ………!!!」
私の願いが通じたのか、油圧が下がり速度も出なくなってきた状態になった頃にプレリー空軍基地の5キロ手前まで来て、失速するギリギリの速度を維持しながら奇跡的に滑走路まで機体がもって着陸することができた。
私が帰還すると、整備兵が駆け寄って大丈夫かと尋ねてきた。
「浅川!!!大丈夫か………よく戻ってこれたな」
「えぇ、機体が破損してしまいましたが………なんとか帰ってきました」
「…加藤飛行隊長はどうした?」
「………加藤飛行隊長はレッドバロンの攻撃を受けて戦死しました、他のパイロットも同様です………生き残ったのは私だけです。」
その言葉を聞いた整備兵は絶句し、その日…プレリー空軍基地に配属されている日本空軍のパイロットは私だけになってしまったのだ。
第106戦闘飛行隊パイロットA「実は俺…故郷に恋人がいるんですよ」
第106戦闘飛行隊パイロットB「出撃前に靴の紐が切れた」
第106戦闘飛行隊パイロットC「お守り無くしたけど大丈夫だろう」
第106戦闘飛行隊パイロットD「レッドバロンに遭ったら刺し違えてでもやってやる!」




