22:逃避行動
「隊長っ!!!!!!!」
加藤飛行隊長の機体が攻撃を受けて操舵不能のまま建物に激突した。
建物に激突した瞬間に機体が爆発して破片が周囲に飛び散る。
上から奇襲だと…さっきまで上を確認したが敵機は見当たらなかったはずだ…。
だが、私の予測を裏切るように目の前で旋回してきた赤い塗料で塗られたドイツ軍の戦闘機とすれ違った。
その戦闘機はドイツ軍のエースパイロットとして名高い、マンフレート・フォン・リヒトホーフェン中尉率いる赤く塗られたフォッカーDr.I達だった。
「なぜレッドバロンがここに………?!ヴェルトハイム級軍用飛行船の護衛に当たっているんじゃなかったのか?!」
爆弾を投棄して私は回避行動に入った。
他のパイロットも加藤飛行隊長が撃墜されたことを受けて散り散りになってしまっている。
部隊の指揮系統は個々に取ってられる場合ではなくなってしまった。
私はあらゆる思考を研ぎ澄ませて、ここから生き残ることだけに集中する。
(………レッドバロンが来ているということはヴェルトハイム級軍用飛行船の護衛をしなくても制空権が確保できたからなのか………パリのほぼ全域がドイツ軍の支配下に置かれたというわけだ………今、あの戦闘機と構っている暇はない!!!全速力でこの空域から離脱するぞ!!!)
逃げることは恥ではない。
私が視認しているだけでも敵の精鋭機が6機いる。
上からもっとやってくるだろう、下手に格闘戦に持ち込んでしまえば相手の思う壺だ。
むやみやたらに首を突っ込まずに逃げることを優先しよう。
加藤飛行隊長も言っていた…レッドバロン率いる赤塗りの戦闘機との交戦は絶対に避けろと。
私は加藤飛行隊長の教えを守って逃げるようにその場から逃避行動を開始した。
私の後ろに同じ部隊の後続機がついてきている。
私と一緒にいれば生き残れると思ったのだろう。
だが、その友軍機の願いは聞き届けられなかった。
レッドバロンの追撃を振り切るために最高速で建物が入り組んでいる十字路を曲がった際に、後続機は曲がり切れずに時計台に激突してしまった。
(…くそっ………また味方が一人死んだ………!!!)
日の丸でペイントされた二式17型戦闘機は一機、また一機をレッドバロンに狩られていく。
二式17型戦闘機が他の戦闘機に比べて軽量とはいえ、敵の戦闘機…フォッカーDr.Iは三枚翼の戦闘機で旋回性能と運動性に優れている。
全体的な性能はフォッカーDr.Iが非常に有利だ。
敵は機体の性能を最大限に活かして狩りを行っていた。
私は次々と撃墜されていく味方に心の中ですまないと謝りながらレッドバロンの追撃から逃れることに成功した。
第106戦闘飛行隊の航空機は次々と撃墜されて現時点で残存機は私だけとなってしまった。
敵の追撃が無いことを祈りながら低空で毒ガスが散布されたパリ中心部に近づかずに、ひたすら最高速を維持したままセーヌ川に抜けた。
セーヌ川の水面には、ぽつぽつを浮かんでいる兵士や一般市民の死体と、漁船や小型の旅客船に機関銃を取り付けたドイツ軍の武装艇が私を待ち構えていた。