2:大日本帝国空軍
友軍機と連なって地上の滑走路に着陸する。
私が航空自衛隊を退役するまで乗っていたF-15Jイーグル戦闘機のようにボタン操作で車輪を出さなくてもいい。何せ、複葉機には既に車輪が剥き出しの状態で飛行しているからな。
旧ソ連軍のI-153のように折り畳み式の複葉機もあったが、あれは第一世界大戦後に製造されたものだ。
着陸してバンカーに機体を運んで降りると、いきなり背中をバシバシと叩かれる。
振り返ると凛々しい顔立ちをした金髪の男性が笑顔で私の顔を見ながら流暢なイギリス英語で絶賛していた。
「お前すごい戦いぶりだったぞ!あれだけのドイツ軍機を相手に憶することなくあのような戦術で撃退するとはな…気に入ったぞお前!そうだ…お前の名前は何というのだ?」
「わ、私の名前でしょうか…?」
「そうだ、他に名前なんてないだろう?そこにネームプレートに描いてあるだろう?俺は漢字は読めないからな」
飛行服の右側には私の名前である「浅川裕一郎」「一等飛行士」と書かれたネームプレートがあった。
ここでも私の名前は浅川裕一郎なのかと納得して目の前にいるイギリス人に応える。
「私の名前は浅川裕一郎、階級は一等飛行士です。苗字の浅川と呼んでもらえると幸いです」
「了解した。浅川、明日空を飛ぶ時は俺を連れて行ってくれよな!知っていると思うが、俺はジェームズ・マッキー大尉だ!それじゃあ俺はこれから司令官に報告を入れてくるからまたな!」
手を振っているジェームズ大尉に敬礼で返すと、彼はそのまま基地司令官の所に走って報告をしにいったようだ。
どんな報告がされるのかは不明だが、一応同盟国である日本空軍パイロットがやってくれたと報告してくれるだろう。
同じ日本空軍のパイロットたちは私を囲むようにしてどうやってあのような戦術を編み出したのかしつこく聞いてきた。
周りのパイロットたちは私と同じぐらいの歳で階級も一等飛行士達ばかりであった。
それでも敬語を使わないと殴られるかもしれないので、分かりやすくジェスチャーを交えながら説明した。
それを見ていた飛行隊長が驚いた顔をしてこちらに近づいてきた。
飛行服には「加藤守」「上等飛行兵曹」と書かれている、どうやら私の上官で、この日本空軍部隊の隊長を担っている人物だそうだ。
「浅川!さっきの戦いは見事だった、一撃離脱しながらも着実に敵の戦力を摩耗させる戦い方…落ちこぼれのお前にしては勿体ないぐらいのものだったぞ」
どうやらこの世界の私は落ちこぼれだったようだ。
聞けば、部隊内でも足を引っ張るぐらいの奴だったらしく、来月あたりに日本に帰そうと検討していたと加藤上等飛行兵曹の口から溢すほどだからよっぽど不器用な人間だったのだろう。
一応、飛行隊長の前では正直に言わなくてはならない。
下手に知ったかぶりをするよりも、説明が早いと思ったからだ。
「加藤飛行隊長殿、それにここにいる皆さんにお話したいことがございます。少し与太話に思えてしまうでしょうがお時間があればその話を聞いてもらえませんでしょうか?」
「…分かった、聞こうじゃないか」
「では…お話しいたします…実は…」
…手っ取り早く話をすると、私がコックピットにいる直前までの自分の記憶が突然欠落したと皆に伝えた。
そして、なぜかコックピットに座っていると自覚した途端に戦闘機の様々な情報や飛行戦術などが頭の中に入り込んできて、隣の機体が撃墜されたことが判ると攻撃してきた敵機をその飛行戦術に乗っ取って撃破したと語った。
流石に未来から転生してきたなんて話は信じて貰えないだろうし、そんなことを言ったら記憶喪失よりも厄介になるからだと判断したからだ。
加藤飛行隊長は私の話を聞き終えると、真剣な眼差しを私に向けてで言った。
「そうだったのか………今のお前の腕であれば敵は形無しだ。無理に記憶を思い出させることもしなくていい。今は人手が足りないし、上には才能が開花したと言っておこう」
私の腕を認めてくれたようだ。
私は加藤飛行隊長に頭を下げる。
「ただ、今一度だけ視力と聴力検査だけはやってもらうぞ、早速飛行服を更衣室で脱いで制服に着替えてこい」
「…ありがとうございます、加藤飛行隊長殿…あの…更衣室はどこにありますでしょうか?」
「ああ、そうだったな…記憶が無くなっちまったんだったな…おい吉村一等飛行士、浅川一等飛行士に更衣室の場所を教えてやってくれ、それから他の奴らは機体の整備を手伝ってやってくれ。俺はこれから基地司令官に戦果を伝えないといけないからな」
加藤飛行隊長は飛行服を着たまま基地司令官の所に走って向かっていった。