三人称視点4:我らはパリ市民遊撃隊
○………ドイツ軍支配地域、フランス首都パリ………○
現在フランスの首都であるパリはドイツ軍と、イギリス・フランス・日本軍の三カ国がせめぎ合って戦闘を行っている。
パリの実に90パーセント以上がドイツ軍に占領されているが、ヴェルサイユ宮殿を拠点とするイギリス陸軍第八騎兵師団、フランス陸軍第一戦車大隊、日本陸軍第十五歩兵師団を中心とした連合国軍による徹底抗戦が行われていた。
パリ市街はすでに瓦礫の山と化しており、半月前に大部分が制圧下に置かれてもパリ市民は反ドイツ感情によって、その大半がドイツ軍に対するサボタージュ活動を行っている。
サボタージュ活動を行っているのはパリ市民で構成された民兵軍である「パリ市民遊撃隊」だ。
構成員はパリ市街に残った殆どの人間が、この遊撃隊に参加していた。
老若男女問わず、パリを守るべく立ち上がった市民たちである。
ある女性は娼婦となって、夜に相手をするドイツ軍の将校から機密情報を盗んだり。
ある子供は小柄な体形を活かして下水道に潜り込んでドイツ軍の状況を連合国軍に伝えたり。
ある老人は普仏戦争の時に死んだ兄に代わって、反撃されて狙い撃ちされるのを覚悟の上でドイツ軍を窓から狙撃したりした。
また、大規模な市街地戦となってくると従来のボルトアクション式の銃では近接戦闘に不利となり、ショットガンやサブマシンガンが猛威を奮った。
サブマシンガンは連合国軍の一員となったイタリア軍が使用しているビラール・ペロサM1915を各国がライセンス生産し、パリ防衛戦においてはその威力を遺憾なく発揮し、フランス陸軍が撤退する際に日本陸軍に配備されたビラール・ペロサM1915(日本陸軍での名称は15式VP型機関銃)がドイツ軍をけん制して撤退を成功させることが出来た。
ドイツ軍もこのことを受けて短機関銃の開発を急がせることとなる。
一方で、ドイツ軍はパリ市街戦においてイギリス陸軍が構築した市街地内での罠の解除に苦戦していた。
半月前にパリのエトワール凱旋門に入場したドイツ軍将校が高らかにパリ完全占領ももうすぐだと宣言したが、その占領を阻止するべく罠を張り巡らしたイギリス軍の置き土産はとんでもない代物であった。
その土産とは、なんと機雷であった。
本来であれば海上封鎖に使われる機雷を態々サン=マロで生産したものを運んできてパリ市街地の至る所に埋めたのである。
それも、ただ埋め立てるのではなく大通りなどの見通しの良い場所に機雷を埋めてドイツ軍の車両や戦車が通ると爆発する仕組みになっていたのである。
それ以外にもあらかじめ爆薬をセットして、ドイツ軍の兵士が来ればその爆薬を起爆させて機雷と一緒にぶっ飛ばすというものだ。
この機雷による被害はパリを占領したドイツ軍の実に8パーセントにも及ぶ。
戦力の一割近くを機雷トラップにやられたドイツ軍は市民によるサボタージュ活動を強く非難した上で、パリ市民遊撃隊のメンバーの炙り出しを行うべく、パリ市街のほぼ全域に毒性を強化した新型のマスタードガスによる攻撃を行った。
その攻撃は遠方からでも確認でき、パリが黄色い煙に包まれたと言われたほどだ。
ドイツ軍で炙り出し作戦と称されたこの作戦によって、市民7万人とパリ市民遊撃隊の8割を殲滅することに成功し、市街地での脅威を半減させたドイツ軍はヴェルサイユ宮殿周辺に展開していた連合国軍に大規模な突撃を開始した。