13:鉄拳制裁
マルガレーテ少佐は大佐をからかったのだ。
普仏戦争はプロセイン…今のドイツと第二帝政のフランスが戦い、フランスがドイツに敗北した苦い戦争だ。
フランス人にとって、それをからかわれるのは癪に障るだろう。
案の定大佐は顔を真っ赤にし激怒した。
マルガレーテ少佐の右の頬にビンタを加える。
ピシャッと痛々しい音と共にマルガレーテ少佐の頬が赤く腫れる。
「図に乗るな!!!貴様はここでは貴族でも少佐でもない只の捕虜なんだぞ!!!少しは立場を弁えろ!!!」
殴られたマルガレーテ少佐は、右手で殴られた所を抑えて擦ると、再び口を開いてこういった。
「あら?でも事実ではありませんか、第二帝政のフランスは当時のプロセインの国力と軍事力、統率力を過小評価して結局包囲されナポレオン三世は10万人の将兵と共に惨めな降伏をしたではありませんか?それにプロセインはフランスが侵攻してくるのに備えて何度も作戦を練って敵を誘い込む包囲戦術を行い、それを成功させてナポレオン三世を捕らえたのですよ…ナポレオン三世が部下からの情報と欲をかかずに正しく戦場を認識していれば、ドイツ軍に包囲されることなくパリに脱出できたのに…そうすれば形成を立て直して第二帝政フランスは和平に持ち込めたではないでしょうか?最も…情報だけでなくフランス軍の武器の更新が遅れていたのも勝因にあるとは思いますが、これを情報戦を疎かにしていた以外になんと表現すればいいのかしら?浅川一等飛行士もそう思いませんか?」
やられたら倍に返す…どこかのドラマで主人公が言っていたセリフだが、今まさにマルガレーテ少佐は大佐に殴られたのを言葉で返している。
大佐もマルガレーテ少佐の言葉に反論できず拳を強く握っている。
確かにマルガレーテ少佐の言っていることは正しいのかもしれないが…なぜ最後に私に話を振ってきたんだ!
お陰で大佐がさっきよりも恐ろしい目でこちらを睨んでいるじゃないか!
「黙れ少佐ァァァ!!!!少し黙って聞いていればフランスへの侮辱を言いやがって!!!もっと殴られたいか!!!」
バシッ!!!バシッ!!!!と今度は鈍い音が聞こえた。
するとマルガレーテ少佐は口から血を流している。
頬も青紫色に変色している。これは内出血を起こしているな…。
明らかに大佐はやりすぎだ。
私は大佐が三発目を殴ろうとしていたので流石に止めようと殴ろうとしている右腕を掴んだ。
「大佐!!!落ち着いてください!!!これ以上マルガレーテ少佐を殴れば女性の捕虜に関する規則への違反に接触してしまいます!!!お怒りでしょうがどうか心を鎮めてください!!!」
「黙れ浅川!!!!貴様も殴られたいかぁ!!!!外野の日本人は黙っていろ!!!口出しするなぁ!!!」
大佐は物凄い力で私を押しのけて壁に叩き付けた。
鈍い音と共に私も大佐に胸ぐらを掴まれて頬を全力で殴られた。
その時だ、マルガレーテ少佐は外にいる憲兵にも聞こえるぐらいの大声で叫んだ。
「キャアアアァァァァッ!!!浅川一等飛行士が大佐に殺されるううぅぅぅぅ!!!!!」
その声を聞きつけた憲兵と基地の警備兵が、慌てて尋問室のドアを開けて入ってきたのだ。