12:金髪の女神
宿舎から歩いて5分のところに佇むコンクリート建築で出来た頑丈な建物。
ここに軍規違反を犯した軍人や敵国の捕虜を収容している収容所がある。
収容所といってもそこまで大きいものではなく、小学校の体育館ぐらいの大きさの建物に50人程度の捕虜が収容されているようだ。
収容所前に佇んでいる警備兵に敬礼すると、警備兵は返礼をして私に絡んできた。
「おお、浅川か!ドイツのお嬢様からプロポーズされたって?」
「少佐ならすでに尋問室にいるそうだぞ、尋問室はここを右に曲がって三番目の部屋だからな、まっ…気を付けてな」
「すみません、ありがとうございます」
礼を言って尋問室の前まで到着すると、既に尋問室前には二名ほど兵士が佇んでいた。
空軍所属の警備兵ではなく、フランス軍の国家憲兵隊のようだ。
先程あった警備兵よりも規律正しく背筋を伸ばして銃剣を構えて待機している。
私は自分の身分と階級、そしてここに呼ばれていることを伝えると少し待つように伝えられて、部屋のドアをロックしている。
「…何だ?」
「浅川一等飛行士がお見えです」
「分かった、通せ」
中に入れてもらうと、そこはお世辞にも良い場所とは言えなかった。
通気口が狭く、室内はジメジメしている。
部屋は昼前なのに暗くてランプの灯りが眩しいほどだ。
椅子に手錠を掛けられて座っている金髪の女性…この人がマルガレーテ少佐のようだ。
ランプの色に照らされて光る髪の毛が女性としての魅力を引き立てている。
飛行服をきたままだが、その服を着ていても分かるぐらい女性特有の体のラインが分かるぐらい豊満な身体をしていた。
いかんな…男としてどうしてもそういった所に目がいってしまうのはいかんな…気を付けないと…。
そしてマルガレーテ少佐の前に立っているのが、憲兵隊の幹部らしい。
鋭い眼光と背後から漂うオーラのような威圧感が凄まじい。
度々鬼教官にどやされても平気だった私ですらその威圧感に飲み込まれそうになるほどだ。
「浅川一等飛行士、君の活躍は聞いている。私はフランス国家憲兵隊リチャード・ゴーン大佐だ、これから私の指示に従うように、私の許可なく喋るのを禁じる………返事は?」
「はっ、了解いたしました大佐…」
「よろしい…では、尋問を始めよう」
高圧的な態度で接してきたリチャード・ゴーン大佐は予め憲兵隊が調べたであろうファイルを取り出してマルガレーテ少佐のプロフィールを読み上げた。
「マルガレーテ・フォン・ソロステ…25歳…ハンブルク出身…ソロステ家の長女で父親が繊維業界に投資を行い、その投資が功を奏して僅か3年で繊維会社…ヴィデーファーデン社をドイツの三大繊維会社に上り詰めるまでに成長させる。1914年にパリ中央大学を卒業、同年にドイツに帰国する。去年の2月にドイツ陸軍航空隊に入隊、貴族であることを理由に特別階級からスタートして現在に至る…か………」
ゴーン大佐が読み上げたマルガレーテ少佐のプロフィールを聞いてマルガレーテ少佐は笑い出す。
「何が可笑しい…!!!」
ゴーン大佐が怒ると、マルガレーテ少佐はこう答えた。
「ふふふっ、もうそんなところまで分かってるのかしら…流石フランス国家憲兵隊というわけね、普仏戦争で負けてから情報戦を疎かにしなくなったのね」