三人称視点3:出てこい、連合国軍の連中よ!
ドイツ陸軍第13戦闘機部隊全機未帰還…。
その内容は衝撃を持ってドイツ軍に伝わった。
しかも、南フランス自由ラジオ放送を傍受した兵士によれば、彼らを撃墜したのが日本空軍の新米パイロットがやったと報じていたのが更なる衝撃であった。
『本日、日本空軍の浅川裕一郎一等飛行士による勇敢な行動によって、ドイツ軍の赤い塗料で描かれた精鋭戦闘機7機、爆撃機3機を撃墜しました。彼にはフランス軍からエースパイロットの勲章を授かる予定です。また紺碧勲章、および大英帝国陸軍よりレディッチ一等勲章も授与されるとのことです。先月29日に配属されたばかりの新人パイロットが前代未聞の快挙を成し遂げたのです。浅川裕一郎一等飛行士は、今週中にも飛行兵長へ昇進するとのことです…』
この放送はフランスだけではなく、イギリスでも同様の放送を行っていたのだ。
どれも、浅川裕一郎一等飛行士による撃墜であると断言していた。
ドイツ陸軍第13戦闘機部隊の半数以上を撃墜した日本人パイロット。
この話を聞いていたマンフレート中尉は、その情報が確実なものか基地司令官に問い合わせていたほどだ。
後の通達文で、その情報が真実であることを知ると、マンフレート中尉は驚きを隠せなかった。
半月前のパリ防衛戦では日本空軍のエースパイロット4名を撃墜し、欧州に派遣されていた日本空軍に致命的なダメージを与えたものだと確信していたからだ。
ドイツ陸軍第13戦闘機部隊も、パリ防衛戦でイギリス陸軍の戦闘機…およそ30機以上をさせている腕利きの連中であった。
それが全滅だったという悲惨な結果を受け入れるしかないのだ。
「あの第13戦闘機部隊が全滅するとなると非常に厄介な敵が現れたというわけか…」
通達文を握りしめて唇を噛みしめるマンフレート中尉。
ドイツ軍が優位に立っているとはいえ、ここで精鋭部隊を失ったのは痛い。
機体とは違ってパイロットの補充には時間がかかる。
訓練や教練等で最低でも3週間ぐらいは時間が必要になる。
その間にも連合国軍は優位に戦況を進める可能性が出てきたからだ。
「彼らの無念を晴らす為にも早くフランスを屈服させねば…」
ドイツ軍は現在爆撃機部隊による大規模爆撃を敢行している。
プレリー空軍基地にも爆撃機部隊が向かったようだが、爆撃機は全機撃墜されたという。
護衛機のパイロットは、爆撃機を守るために護衛したが敵の動きが俊敏で狙いが定まらなかったと言っていたそうだ。
浅川裕一郎…日本人のエースパイロットの名前はその日のうちにドイツ軍を震撼させる。
そして浅川裕一郎の物語は、今始まったばかりである。