三人称視点2:ヴェルトハイム級軍用飛行船
○……ドイツ軍支配地域、フランス本土領ランス陸軍航空基地……○
全長230メートルの巨大な軍用飛行船が5機も並べられている。
ドイツ軍が誇る軍用飛行船「ヴェルトハイム級軍用飛行船」である。
このヴェルトハイム級軍用飛行船は西部戦線、東部戦線において連合国軍を圧倒させた恐るべき巨大兵器である。
連合国軍の地上兵士の度肝を抜かせた上に、パリを防衛していたフランス軍の大半を破壊し尽くした。
ヴェルトハイム級軍用飛行船はフェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵が起業したツェッペリン財団により、ドイツ帝国陸軍から発注された巨大軍用飛行船で1916年4月に最初の機体が完成し、一か月に1機のペースで量産されている。
この機体は西部戦線に6機、東部戦線に7機が1917年5月1日現在までに配備されていた。
ジュラルミン合金を使って防御力を固めたこの軍用飛行船は、通常の戦闘機で撃ち抜くことは難しい。
クルップ社製15cm速射砲2門と、対空防衛用銃座が12門もあり、それぞれ飛行船の死角になる部分に配備されている。
さらに60tもの爆薬を運搬することができるので、空飛ぶ要塞と恐れられている。
パリ防衛戦では、6機のヴェルトハイム級軍用飛行船が投入され、守りを固めた軍事施設やイギリス陸軍の高射砲部隊と応戦し、それらを撃破しパリ市内の戦闘能力を著しく削る役割を果たした。
そればかりでなく、飛行船を狙おうとした戦闘機部隊を銃座に取り付けられたMG08重機関銃によって阻止され、攻撃・防御共に隙が無い。
故に、連合国軍では空中要塞の異名を持つ現時点で最強の兵器である。
また、1917年4月1日に配備されたばかりのヴェルトハイム級軍用飛行船には戦闘機を4機ほど収容できる格納庫があり、空飛ぶ空中航空母艦としてパリ防衛戦で投入され、前線で補給を受けながら繰り返し出撃できるというメリットを生かした持続的補給を見出し、戦闘機の空中補給を実現した飛行船でもある。
この巨大な軍用飛行船を基地の司令塔で、苦いコーヒーを飲みながら眺めている一人の男がいた。
その男は赤い悪魔と西部戦線の連合国軍兵士から恐れられているエースパイロット、マンフレート・フォン・リヒトホーフェン中尉であった。
マンフレート中尉はパリ防衛戦において、数多くの連合国軍の戦闘機や爆撃機を撃墜した。
1915年からこれまでの戦闘記録だけで、イギリス軍機12機、フランス軍機19機、日本軍機26機を単騎で撃墜している。
彼は西部戦線においてドイツ軍の広告塔にもなっている敵味方問わず名の知れた文字通りのエースパイロットである。
そんな彼が気掛かりにしている報告が司令部から通達文として受け取っている。
その通達文には、マンフレート中尉が腕を認めていたベテランパイロットで編成された13機の赤い塗装を施した戦闘機部隊「ドイツ陸軍第13戦闘機部隊」が一機も帰ってこなかったというものであった。