1:転移、そして戦闘
架空戦記小説なのに、いきなりチート発動してしまって本当に申し訳ない…
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長年世話になった航空自衛隊を退職して去って三年、妻と娘夫婦と一緒にN県の標高1700メートル程のH山を登っていた。
山の中腹を登っていた時だ、大きい落石が頭上に降ってきた。
咄嗟に妻を守ろうとして妻を突き飛ばした途端に、落石が頭を直撃しその弾みで山の斜面に落ちるように滑落していった。
自分の人生で経験した全ての出来事が走馬灯のように映し出される。
航空自衛隊での訓練…妻との初めてのデート…娘の出産…娘の結婚式…全てが思い出となって押し寄せてくる。
ああ、私はこれから死ぬのだろうなと目を閉じて全てを悟り、死を覚悟した。
そして私の腰に強い衝撃が加わった途端に、目の前が真っ暗になった。
…死んだはずだった。
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だが、顔に何か冷たいものが当たっていると感じた私はゆっくりと目を開けると、目に掛けているゴーグル越しに映ったのは複葉機のコックピットだった。
無意識のうちに私は操縦桿を握っているのだが…果たしてこれは夢なのだろうか?
それとも現実なのだろうか…?
キョロキョロと私は周りを見渡すと、白いボディーに日の丸の円形章が描かれた複葉機が私の左に7機、イギリスの国籍マークが描かれた複葉機が12機も編隊飛行をしながら連なっていた。
(しかし…複葉機とは…えらい古い機体だな…機種はなんだろうか…)
私が感心しながら見ているのも束の間、雲の下から別の複葉機が機関銃を発砲しながら隣にいた日の丸が描かれた複葉機が派手に破片と爆発を起こして雲の下に落下していく。
攻撃してきた複葉機は赤い塗装を施されていて、プロセインのマークが描かれていた。
(あれはドイツ軍の複葉機…ということはここは…第一次世界大戦の戦線か?!)
戦場のど真ん中にいると分かった途端に、何故か分からないが機体の操作方法が頭の中に入り込んできたのだ。
どうすれば機関銃を撃てるのか、旋回方法、計器の見方などが一気に頭の中に押し寄せてきて、そして理解できてしまったのだ。
(この機体はフランス製のニューポール17複葉機か…大日本帝国空軍ではニ式17型戦闘機と呼んでいる…ルイス軽機関銃の97発入りの大容量弾倉が一つ…最高速が160キロとちょいか…ジェット機に比べたら遅すぎるが、動きの予測が付きやすいな!どれ、ひと暴れするか!)
航空自衛隊のアグレッサー部隊の鬼教官から鍛えられた航空戦術の数々をこうして実戦で試す機会など滅多にない機会だからな。
周りの機体がドイツ軍の奇襲攻撃で慌てふためている間に、先ほど襲ってきたドイツ軍の複葉機は旋回してこちらに向かってきた。
再びこちらとやりあうつもりか…が、そうはさせんぞ!
機体を斜めに傾けた状態で加速し、真正面から攻撃を仕掛けようとしてくるドイツ軍機の右側面に機関銃を一秒間発射した。
約8~12発が機体に着弾し、ドイツ軍の複葉機はそのまま黒煙と炎を噴き上げて落下していった。
今までの人生で初の撃墜戦果だ。
もしかしたら航空自衛隊出身者で初だろうな。
…生きていればの話だが。
「現代の戦闘機に比べたら弾薬の数も限られている…敵の弱点を狙って撃つしかない!」
再び雲の下からドイツ軍の複葉機が現れた、今度は12機。
こちらの友軍機は、どうも動きがぎこちなく一斉に襲い掛かってきたドイツ軍の複葉機との格闘戦に移行してきた。
やはり第二次世界大戦まではこうした近距離間での戦闘が主だったようだ。
目視できない距離からミサイルでの攻撃が基本となった現代航空戦術に比べたら撃墜されるリスクが大きい。
しかし、友軍機を見捨てる真似なんてそうできるものか。
IFF(敵味方識別装置)なんてものはないから目視で友軍機を誤射しないように一撃離脱戦法で友軍機を襲っているドイツ軍機を確実に仕留める。
こちらに気が付いているドイツ軍機はいないのが好都合だった。
赤い塗料で塗られたドイツ軍機のコックピット部分目掛けてルイス軽機関銃の引き金を引く。
ドイツ軍機を一機、また一機と撃墜し、残弾が10発程度になる頃にはドイツ軍機6機を撃墜していた。
格闘戦で優位にたった友軍機は混乱が収束した為、形成を持ち直して残存敵機を撃退することができた。
友軍機の回光通信機による指示を受けて編隊飛行の形態に戻り、前線から離れた航空基地に着陸することとなった。