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わたしが木になる、その時に  作者: 神酒屋
第一章 始まるなら、それは種
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第8話 錬金術師を尋ねて

 さて明くる朝。これまでの種生活と一緒でわたしは眠ることはなかったのだが、わたしを抱き枕扱いしていたメロニアの起床に合わせて起きた事にして、食卓に向かった。

 イーディニアさんとメルタールさんは既に起きていて、朝食の準備も済んでいた。朝早くからお疲れ様です、イーディニアさん。


 朝食は茶色パンと炙ったベーコン的なものと恒例の根菜スープである。

 ただ、わたしの前に置かれているのは皆と違う。というのも、昨夜の話し合いのときに、スミルドさんが塩気の強いものなんかはあまり良くないということを言っていたのでメニューを変えてあるのだ。

 わたしの分は機能の麦粥もどきからチーズと干し肉を抜いて、スープの根菜を足したものだ。これをわざわざ作ってくれたということの嬉しさよ。有難や有難や。


 今日はメロニアがご飯の面倒を見てくれて、ただわたしのほうに集中しすぎたことで途中からイーディニアさんにスプーンを没収されて、選手交代となっていた。

 そんなこんなで朝食が終わると、イーディニアさんとメロニアを残して、わたしはメルタールさんに連れられてお出かけと相成った。

 昨日の夜に話していた通り、スミルドさんのところに行くのだ。スミルドさんは村の端の方に住んでいて、ポーションを作ったり錬金術の研究をしていたりするのだそうだ。

 錬金術と聞いてとある漫画を思い出したが、そういう感じではなくてポーションを作ったり家畜代わりの労働力を用意したりしているらしい。はて、労働力とな?

 メルタールさんは、その辺りは見たら驚くかもなとイタズラ小僧みたいな笑顔でニシシと笑っていたので個人的には楽しみにしているところでもあるのだが。


 そうして暫く歩いていくと、メルタールさんが目的地を見つけたらしくあそこだと一軒の家を指差した。

 その家は他とは大分様相が異なっている。基礎部分や暖炉周りっぽいところ以外にも石材が使われていて、周りの建物より丈夫そうなのだ。

 それから壁に繋がる形で大き目の厩舎みたいなものがある。ただ、外から見た限り一つ一つの、馬房だっけ?そんな感じの部屋が狭そうだ。中に馬なり牛なりがいたとして、ストレスたまりそうだな。

 玄関らしきところの隣に大きな窓があり、そこに大き目の鐘が取り付けられていた。これってもしかして呼び鈴的なものですか?うちにはなかったけど……ってそういえばスミルドさんは薬師のようなことをしているんだったか。じゃあ必要そうだね。


 とまぁ、わたしが観察している最中もずんずんとメルタールさんは進んで行っていたので、わたしも慌ててついて行った。

 家の前に着くと、やはりというかメルタールさんは鐘から出ている紐を掴んでから何度かゆすり、スミルドさんに到着を伝える声を窓から家の中にかけた。


「おーいスミルドー!メルタールだ、アル連れて来たぞー」

「……はーい!ちょっと待っててくださいー!」


 そう返事がしてから数分後、ガチャリとドアを開けてスミルドさんが顔を出した。

 出したんだが、スミルドさん隈がやばいですね。あれから寝てなくないですかね。なんならその右手に持ったままの本で何していたか大体察しが着くんですが。文字読めなくてもしっかりと本を握っている所為で察せてしまうんですが!


 しかしこちらの考えなど何のその、スミルドさんは隈くっきりの顔で微笑んでわたしたちを家の中へと招きいれた。知り合いじゃなかったら絶対ついていかないような顔色しているんですがこの人。


 連れられるままについて行ったわたしとメルタールさんは応接間っぽいところに案内された。

 わたしはメルタールさんに椅子の上に乗せてもらって、皆が席に着いたことを確認するなり、スミルドさんはずいっとわたしに顔を寄せてきた。今のズームアップなんかデジャヴ。


「それじゃあさっそくで悪いんですが、いくつか確認させていただきたいことがあります。アル、キミの持っている《異質なる知性》スキルをサンプリングクリスタルという道具で誰でも閲覧可能な状態に結晶化させたいんだ。構わないだろうか?」


 割と深刻そうな顔で、スミルドさんがそう言った。サンプリングクリスタル?スキルの結晶化?なんですかね、それ。異質なる知性ってスキルを抜かれるとかですか?


「スミルドよ、なんだよそりゃ。なんか都とかの方で使うような道具の話か?」


 メルタールさんもわたしと同じで良く分からなかったらしく、スミルドさんの視界に割り込むようにしながら尋ねた。お、メルタールさんナイスですよ!

 ついでにわたしは何の話かわからないよーという感じのモーションでアピールしておく。


「あぁ、確かに急でしたね。一通り説明させて頂きますとも」


 スミルドさんはそういうと、つらつらと今の話を保管するように説明を始めた。

 サンプリングクリスタルというのは、対象の同意を得た状態で使用することで、対象が持っているスキルの詳細情報を映し出すことが出来るようになる水晶のことだそうだ。

 これを使うことで、スキルの詳細を持ち主以外でも細かく知ることが出来るのだとか。それは持ち主自身ですら確認できない部分も見ることが出来るので、スキルについて細かく確認できる術を持たない場合には自分に対して使用することもあるらしい。もちろんこの道具を使用しても不利益を被る事は副次的なものを除いてないらしい。副次的なものと言ってもスキルがばれることで保有している技能が外部に露呈するということなので、今回には適用されないとか。

 そうした、サンプリングクリスタルのような道具を使用したスキルの可視化を「スキルの結晶化」と呼称するらしい。サンプリングクリスタル以外にもスキルの結晶化を出来る道具もあるが、今回の場合には向かないので今回はサンプリングクリスタルなんだとか。


「今回はサンプリングクリスタルで《異質なる知性》スキルを結晶化して、それをアルに身につけさせます。こうしておけば、知性系のスキルを持っていてアルは安全な魔物であるということが、遭遇した人たちに理解してもらえると思うんですよ」


 ということらしい。まぁ確かに、人目で危険の少ない魔物ですよー、とわかるならそれは助かる。この村で生活するなら特に。

 ここで馴染めたとして、外から来た人がわたしを見たときに、妙な魔物を囲ってる村だなんて思われなくなるということは、村を危険にさらすことが少なくなるということだ。

 そうなれば、村人たちとの余計な軋轢を生んだり、関係者が迫害されるリスクを減らせるのだから。


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