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わたしが木になる、その時に  作者: 神酒屋
第一章 始まるなら、それは種
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第7話 知恵者の見識を外れて

 あれから暫く経って日が落ち、皆が帰ってきたことで晩御飯の時間になった。

 晩御飯のメニューはお昼より少し多めで、麦っぽいのとチーズみたいなものといくらかの干し肉を煮詰めて作ったお粥みたいなものに、お肉を焼いたもの。それから葉物野菜を中心としたサラダと、お昼と同じ根菜類のスープだ。

 スープに関しては継ぎ足ししながら同じものを食べているようだった。こういうの昔にヨーロッパでは良くあったみたいな話をどこかで聞いたことがある気がする。別の地域と勘違いしている可能性もあるけど。


 そんな感じのメニューをお昼と同じように少し食べていて気がついたのだが、葉物野菜に関しては少し美味しいと感じているのだ。

 これまで通りで味は感じないのだが、新鮮な野菜は少し身になっている感覚があってそれを美味しいと感じているようなのである。水分とかもあるんだろうけど、これは少し変わった感覚だ。人間の体のときの感覚で言えば、暑い中で運動をした後に飲んだ水が体に染み渡るような感じだろうか。少し違う気もするけど今思いつく中だとそれが一番近いと思う。


 そういった感覚的なものが動きに現れていたのかイーディニアさんはサラダを少し多めに食べさせてくれた。メロニアも自分の分から少し分けてくれた。レタスみたいな葉物野菜は食感も心地よくて味が分からない身としては嬉しいものである。

 なので全身で感謝を表現すると、メロニアはにぱぁっと笑顔になってくれて、彼女の両親もそれを微笑ましげに見ていた。良い空気感でほっこりしてしまった。


 暖かな空気の中食事を終えて、後片付けをしているとドアを誰かがノックした。とは言ってもタイミングから考えて、うわさのスミルドさんとやらだろうけども。

 立ち上がったメルタールさんが応対をしていると話している内容から、予想が当たっていたことはすぐに分かったのだった。


「おう、スミルド。お前にしては、思ったより早かったじゃないか」

「はは、メルタールさんこんばんは。僕も気になっていましたからね、ウォークシード亜種って気がついたらいたってのが多いので人工的に亜種化させた個体が目覚めたばかりのときって中々見られませんから」


そんな会話をしながらメルタールさんに招き入れられて入ってきたのは、見た目メルタールさんと同じくらいの年頃の、めがねの似合う好青年だった。

 あとイケメンだった。

 メロニアたちは見るからに田舎の農民といった服装であるのに対して、入ってきた青年はメガネをかけて割合パリッとしているが所々がよれた印象のあるシャツを着た、どこか研究者のような印象のある服装をしていた。


 彼がスミルドさんか。話している内容とか格好から察するに研究者とか学者先生みたいな雰囲気だ。この農民の多い村では多分珍しい部類になるんだろうな。

 夕食の最中に少し語られたないようとして、スミルドさんは怪我とかに効くお薬をくれたりするらしい。それがどうも、所謂ポーションというやつのようなのだ。ますます興味深い話だ。ぜひその辺りのお話を聞いてみたいと思ったけど、わたしはしゃべれないので聞き出すのはむずかしそうだった。つらい。


「こんばんはー、スミルドお兄ちゃん!アルがね、すごいの!スキルも特性も2こずつあるんだよ」

「こんばんは、メロニアちゃん。それは楽しみだ。それで、キミのお隣に座っているのがアルかな?」


 そういってスミルドさんは、食器を洗ったりしているイーディニアさんに会釈をしつつわたしのほうに歩いてきた。

 おお、思ったより背が高い。180近いのではなかろうか。メルタールさんが顔に似合わずかなりの高身長なので、比較対象にしてしまうと縮尺が狂ってしまう。


 とりあえず初対面のスミルドさんには愛嬌を振りまいておくことにする。安定の無邪気アピールである。

 すると少し驚いた表情をしたスミルドさんは、「ほほう」と興味深そうにわたしの顔を覗き込んだ。


「ウォークシードが、亜種とはいえここまで愛想が良いのは珍しいね。どちらかというとマイペースな魔物なんだけど……。これは、触れていた魔力の影響なんかもあるんだろうか。それともなにか特殊な変異体なのかな?」


 そう言いつつずいっと顔を寄せてくるスミルドさん。まって、近いです。わたしにそっちの趣味はないぞ。男に顔を寄せられても、たとえイケメンだとしてもときめいたりはしないぞ、わたしは。


 暫くまじまじとわたしの事を至近距離から眺めていたスミルドさんだったが、メルタールさんに声をかけられることで我に返り、メルタールさんが新しく出してきた椅子に座って、机をはさむ形でわたしと向き合った。


 メルタールさんもスミルドさんの隣に座り、メロニアはわたしの隣に。食器を洗っていたはずのイーディニアさんはいつの間にかお茶のようなものを人数分用意して、わたしを挟んでメロニアの反対側に座った。

 ぱっと見、家族会議でも始まりそうな構図だな。


 微笑を浮かべてイーディニアさんから飲み物を受け取ったスミルドさんは、一口それを飲んでからわたしたち側の二人に目を合わせた。


「それでは、二人はもう、えっとアルだよね。の、ステータスを確認したってメルタールさんから聞いているんだけど、改めてわたしにも見せてもらいたいんだ。大丈夫かな?」

「うん!アル、またステータスだして?」


 メロニアがそう言って来たので、おとなしくステータスを表示することにする。因みに前回表示するときに使用した分の魔力はいつの間にか回復していた。


「|ピピャ(命の底)、|ピャピャピィ(開く扉)、|ピヤーピィ(私の目は覗き込む)」からの「|ピピヤァピ(浮かび上がる英知)、|ピヤピピャピピャ(輝きを手の中に)」っと。


 お昼と同じような現象を経て、わたしのステータスである光の塊が手元に現れた。ふふん、もう慣れたもんですよ。

 一応皆から見やすいように頭の上に掲げるようにして見せると、スミルドさんは勿論のことまだ見ていなかったメルタールさんも少し身を乗り出すようにしてわたしのステータスを眺めだした。あと、なぜかメロニアは自慢気だった。解せぬ。


 メルタールさんは暢気な感じで、魔力多いなとか生まれてすぐでスキルを持ってるんだなとか言いながら笑っていたが、スミルドさんのほうはまじめな感じで、何も言わずに一通り眺めた後、スキルの部分を見て目を見開いた。


「これは、なんだ?聞いたことのないスキルだ……。普通のウォークシード亜種とはやはり違うということか……?」


 少し考え事をするような表情になった後、メガネをすっと持ち上げて改めてスキルのところを眺めだした。

 何度か思案を巡らせるように目線を動かしてから、スミルドさんは皆のほうへと顔を向けた。


「うん。やはりというか、この子はウォークシード亜種の中でも少し特殊な個体のようだね。軽く説明すると、普通のウォークシード亜種が持っているスキルがない代わりに、僕も聞いたことのないスキルをこの子は持っているんだ」

「そうなのー?それって、アルがすごい子ってこと?」

「うーん、まぁそういうことに、なるのかなぁ」

「おいおい、スミルドよ。あんまり勿体振らずに教えろよ」


 そうだそうだ。なんか目立つヤバ気なものみたいな扱いになったらどうするんだ。

と言ってもどのスキルのことかは見当がついているっていうか、確信できちゃってるんだけど。


「普通ね、ウォークシード亜種は穏やかな知性っていうスキルを持っているんだ。それがあるおかげで人と共生できているんだけど。でも、この子にはそれがない代わりに、異質なる知性って言うスキルがある。これは僕も聞いたことがないんだ。

 ただ、安全性って意味では問題ないと思う。知性って言葉が入るレベル表示のないスキルを持つ魔物は大多数が人と共生できると言われているし、そうでなくとも意思の疎通は問題ないって王都の学連でも研究結果が出ているからね。

 これで消えぬ憎悪ってスキルがあるとまた状況もがらりと変わるんだけど、それもないしここまでの様子を見た限りでは大丈夫そうだ。というのが僕の結論かな」


 そこまで一息に語ったスミルドさんは手元にあったお茶をグイッと煽った。

 つまりは、わたしはこの村での自由を獲得できたということで良いのかな。それならなんら問題ないな。これで今すぐ追い出せーとか、いやいや直ぐ様討伐だー!ってなるなら必死こいて逃げ出す所存ですけどね。


 この後のちょっとした話し合いでもそういう流れにはならずに、一応明日の朝にもう一度、今度はスミルドさんの家でいくつか確認を取りましょうってことでひと段落してスミルドさんは帰っていき、わたしたちも寝る仕度に入るのでした。

 因みにわたしの寝床は、今日のところはメロニアと一緒ということになった。

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