第5話 己を知っても変わらず続く
さて、それでは早速ステータスを確認すると致しましょう。
えっと、表示の為の呪文を唱えればいいんだよね。手軽に「ステータスオープン」とかじゃ駄目なんだろうか。まぁそれで周りに見せられないってなったら二度手間になるから今回は教わった手順通りにやってみよう。
と、言うわけで。しっかり心をこめていきましょう。
「ピピャ、ピャピャピィ、ピヤーピィ」
わたしがそう唱えた気分で声を出すと、手と手の間の、丁度さっきメロニアのステータスが表示されていたような辺りにじんわりとわたしのステータスが表示されてきた。
さっきのメロニアのステータスが現れたときとは結構違い、水の張られたプールの底の模様ような揺らめきというか、存在感は薄いが確かにそこにある感じというか。これで回りに見えるようにするとさっきの光みたいになるのだろうか。
因みに表示された内容はこんな感じだった。
―――――ステータス―――――
名前:※アル
年齢:00y00m
種属:怪樹属 ウォークシード亜種
位階:静物型 第1階梯
レベル:01/15
称号:なし
状態:正常
内蓄魔力:15/15
STR:2
DEF:11
VIT:6
AGI:3
DEX:4
INT:9
MND:7
種属特性:
《自在の根・Lv1》
《道行の導き・Lv1》
スキル:
《体当たり・Lv1》
《異質なる知性・Lv-》
―――――――――――――――
ざっと見たところメロニアとの違いが多々あるが、なんとなく自分のステータスに関しては意味が分かるようだ。
第一の謎として名前の部分が「※アル」となっているが、これはきちんと自分のことをアルという名前だと認識できていない為なようだ。これはいずれなくなるんじゃなかろうか。
種属のところはなんていう生き物かって内容で、ここはさっき聞いた通りでウォークシードの亜種だそうだ。
位階は、なんというか生き物としてどれ位優れているかを表しているらしい。
後の部分はさっきとそんなに変わらないかな。強いて言えばレベルに上限があるくらいで。これは上限まで良くとどうなるんだろうか。進化とかするのかな。
続いては種属特性だ。これは今だから使える力っぽい。いつか成長すると使えなくなったりするらしい。
自在の根は手足になっている根っこを自在に動かせる能力で、道行の導きは成長の仕方を示してくれる?らしい。今はあんまり良く分からないけど時が来れば自然と分かるようだ。
スキルのほうは種属特性と違ってずっと使えるみたいだな。これは安心感が素晴らしいね。
体当たりはそのまんまだからパスして、異質なる知性っていうのはわたしがウォークシードとして異質な精神を持っているからついているスキルらしい。そういう性質みたいなのもずっと変わらないならスキルに表示されるみたいだ。これがあればステータスのINTとMNDが上昇するらしい。まぁないよりは良いのかな。
わたしのステータスについては大体こんなところだ。大体確認も済んだことだし、次は回りにも見えるようにする呪文を唱えてみよう。
「ピピヤァピ、ピヤピピャピピャ」
そう唱えてみると、さっきのメロニアと同じようにわたしの体からも光が漏れ出してステータスに纏わりついて、数秒経つとメロニアが見せてくれたのとそっくりになったステータスが手元に浮かび上がっていた。あと浮かび上がったものを見ると、内蓄魔力って項目の左側が1減っていた。ということは周りに見えるようにすると魔力を1使うってことだろう。メロニアの時も1減っていたし。
もしかしてこれは魔法という奴なんだろうか。ということはわたしもこれで魔法使いですか。ふむふむ、感慨深い。そのうちもっと派手な魔法なんかも使えるようになりたいものである。
なんて考察はまぁ後にして、出てきたステータスをメロニアとイーディニアさんに向かって、はい!って感じの動きで見せる。
ちょっと見せるのは微妙なスキルがあるけどこれ自体がどういうものなのかは私自身にしか分からない。
スキルの名前を蓄積されていて、どういうスキルなのかが記録に残っている可能性もあるが、あんまり問題はないのではないだろうかと思っている。愛嬌振りまくところのこととかだと判断してくれないかなぁ、という希望も含めて。
「あら、魔物だけあってアルちゃんって生まれたばっかりでも魔力高いのね」
「お母さんお母さん!アルって特性もスキルも2こずつ持ってる!すごいね!」
おや、思ったより好感触だ。たんにスキルの意味が分かってないから悪い反応がないだけかもしれないけど。
というかイーディニアさんや、今さらっと大事なこと言いませんでしたか?
あれ、わたしってもしかしなくても魔物なんですか。いや、なんとなくそんな感じの生き物なんだと思っていたけど、やっぱりそうなのか。
シュレディンガーの猫箱的な解釈として、どう考えても尋常な生き物じゃないけど明言しなければそれは一般的な生き物である可能性も内包していられる。と、思っていたんだけどなぁ。なかなか思うようには行かないらしい。儘ならんぜ。
とまぁそんなこんなで、わたしのステータス確認も無事終了し、ここからは家族でご飯の為の準備に入るということだった。いつでも食べられるようにしておいて、お仕事をしに行っているお父さんが帰ってきたら皆で食べましょう、ということだった。
わたしも新しい家族の一員ということで、ご飯の準備のお手伝いをすることになった。お皿を運んだり、スプーンを運んだりした。スプーンは何処に行ってもスプーンなんですね。やっぱり人間にとって使いやすい形っていうのは共通しているってことなんだろうな。
とまぁ色々と準備のお手伝い中にふと思ったことがあって、なんと言うか準備されているご飯なんだけど、なんだろう。普通に美味しそうな見た目なんだよ。茶色っぽいパンにお肉を焼いたものと、ニンジンとカブの相の子みたいな根菜とひょろ長い芋っぽいののスープなんだけど。
なんというか自分は食べられなさそうというか。食べてもあんまり意味がなさそうというか。個人的には麩菓子とか綿飴とかを見ているような気分になる。
うまく言語化できないんだけど、こう、あんまり栄養にならなさそうというか、美味しいけど重要じゃない食べ物というか、そういう微妙な感じ。しいて言えばスープのはちょっと良いかもって思うくらい。かなぁ……。
お肉大好きだったはずなんだけどなんだろうこれ。種化した影響とかなんだろうか。
こういう細かな変化に戸惑いつつ、それでもおおよその仕度は終わってお父さんの帰宅を待つのみというところで、メロニアとわたしはイーディニアさんに言われて椅子に座って待つ事になった。どたどたしていたら埃たっちゃうもんね。わかるわかる。
メロニアとわたしが並びの椅子に座って――わたしはメロニアにそっと置かれたのだけど――ちょっとすると、黙って座っているのはつまらなかったのかメロニアがお父さんについて教えてくれた。
お父さんは大きくて力が強くて、よく「わっはっはっは」って笑うらしい。仕事は案の定農民らしく、今は畑の面倒を見に行っていて、お昼ごろに一旦切り上げてきてご飯を食べたらまたお仕事に向かうとか。
今更だけどここは、きちんと一日三食食べる習慣があるようで。地域や時代によっては一食や二食であることをありうることから考えると割と裕福な時勢のようだ。
それもメロニアのお父さんのように一次産業を行うものが多いことや生産性の高い農作物なんかのおかげなんだろう。
なんたってこの村の人は9割もの人が農業で生計を立てていて、しかも1シーズンに二回収穫できる麦っぽい作物が年間通して作れるそうだ。茶色っぽいパンの原料はこれらしい。
その分、土への配慮も大変みたいなんだけど、それでもノーフォーク農法みたいな感じで肥料になる植物なんかを植えたり、土にいい影響を与える作物を植えたりして生産高を落とさないように工夫が取られているんだとか。すごいね、異世界転生モノの定番である内政チートは難しそうだ。石鹸とかもあったし。
そもそも内政チートとかは正直興味がない。種だしな。もともとわたしはそういうの向いてないんだ。
そんなこんなをメロニアから聞きながら考えていると、豪快に扉を開いた音が聞こえた。