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わたしが木になる、その時に  作者: 神酒屋
第一章 始まるなら、それは種
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第3話 触れて始めてここにある

 手だ、手が生えた。足も生えている。これは多分、どっちも根っこみたいなのが手足みたいに動かせるようになったようだ。手のほうは某猫型ロボットハンドだ。

 あと、体の半分くらいが口みたいになって、どうなったか分からないけど音も分かるようになった。急速な変化だけど、これはいい変化だろう。なんたって足が生えた。これで何処へなりとも行けるはずだ。何かの危険に見舞われても自力で逃げられるってもんだ。


「ピヤッピャァア! ピヤヤ、ピヤーピャッピャ!」

 

 こんな風にちょっと甲高いけど声だって出せるようになった。

 あとは視界を獲得できれば怖いものは何も無いな!

 

「ピャーア、ピャッピャピャ」

 

 ――ポロッ


 なんかテンションのままに喜びを載せて歌って踊っていたら視界に若干の明かりが射した。これはもしかしてもしかしますかね?

 ということで、短い腕を精一杯伸ばして目元をたたいてみる。ていっていっ。

 目のところには届かないけど、それでも出来るだけ近いあたりをたたいてみる。するとどうだ、やっぱり目元から欠片が落ちて視界が段々開けていったではないか。

 視覚も獲得してるじゃんか、これ。やったじゃん! 怖いもの無いじゃんこれ!


 こうして開けていった視界に映ったのは、明らかに何かを叩き潰すことに使った痕跡のある柄の長い木槌と、それを受けるのに使っていそうな金属製の台。そして叩き潰された後と見られる何かの種たちの山のような残骸だった。


 ………………めっちゃ怖いんだけどここーーー!!?


「ピャ~~~!!? ピヤァ!! ピヤッ、ピヤッピヤッ!!?」


 嫌だ~~~!!? 死ぬぅ!! ころっ、ころっされっ!!?

 逃げねば! なんだここ、処刑場か!? わたしは今まさに無実の罪で処刑されんとしている哀れな種子だったのか!!?

 とにかくここから少しでも離れなければ、って全方位壁に囲まれてる!? ドア、ドアは何処だ!? あ、あった! ってドアがでかい!? 届かない!! 無理だ、逃げられないよ!! 嫌だー! 助けてー!!!


「ピぃヤぁ~~~~~!!!」


 悲惨な光景に震え、手足を得られたのにどうすることも出来ず、己の身を掻き抱き座り込んだわたしだったが、しかし救いの手は思ったよりあっさりと差し伸べられた。

 わたしが悲鳴を上げて、恐ろしき処刑台から少しでも離れようと壁に我が身を押し付けていると、勢い良く扉を開いて誰かがここに飛び込んできた。


「アル起きたのー!? アルー! アル何処にいるのー!? おねーちゃんだよー!」

 

 そう叫びながら入ってきたのは、見たことのない少女だった。むしろまだ幼女だった。

 顔の造形としてはやや白人に近いが日本人ともそれほど離れていないくらい。目鼻立ちが幼さと活発さを表している。

 肌の色は色素が濃くて、健康的な感じ。金色の髪は太目の三つ編みで一つに纏められている。

 キョロキョロと忙しなく部屋の中を見回していたがわたしの姿を見つけると、顔をぱぁっと、音がするような笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。


 えっと、あれ、処刑場に可愛らしい女の子……だと?

 って、冷静になると種に処刑場とかないよね。なんだろ、この数日の間の植物の種としての生活のせいで常識とか色々と何処かにすっ飛んでいたみたいだ。

 ということは、ここは植物の種から油を絞る為の施設か何かなのかな。割と大き目の、アボカドとかマンゴーの種みたいな大きいものが多いし、普通の農村でも絞って利用できそうな感じだ。

 なんか急に現れた無邪気な幼女の笑顔を見たら一気に冷静になった。混乱してるときに良く分からない要素を追加されると逆に冷静になるタイプだったのかな、わたし。

 というかアルってなんだ? この子の弟さんの名前とかだろうか。


「あ、アルいたー! よかったー、アル起きたんだね」


 そういうと、女の子は壁際によっていたわたしを抱き上げた。

 そして、とても嬉しそうにわたしの頭っぽい部分を優しく撫で始めた。

 ということは、だ。状況的に考えて、彼女が言っているアルというのはもしかしなくてもわたしの事、なのだろうなぁ。


 なら……いや、なんだろう。今のわたしのような、歌って踊れる種のことを彼女たちのコミュニティーでは「アル」と呼ぶんだろうか。ちょっと前までのわたしは大きくなるだけの普通の種だったはずだしな。いや、大きくなる種って普通の種じゃない気がするけど。

 大きくなる種はいずれ手足が生えて動くようになる、というのが分かっていた。だから名前をつけて可愛がっていた?

 うん、この可能性はあるかな。ということはわたしはこの子のペットのような扱いになるんだろうか。それなら芸を覚えたりすることにもなるのだろうか。うぅむ。


「アルどうしたの? お腹痛いの?」


 何か色々と下らない事を考えていると、少女が不安げにわたしの顔っぽいところを覗き込んでいた。

おお、心配をかけてしまったのかな。割と可愛がられているらしいし、もしかしてわたしの事をなでていたあったかい何かはこの子だったとか。ありえそうだな。


 心配かけたようだし、一応わたしの保護者にあたりそうな少女なので、大丈夫だよーという意思を伝える為に手を上げて一声かけ……ようとしてふと思い立った。

 そういえば昔、海外では地域によってジェスチャーとかハンドサインの意味がガラッと変わるって聞いたことがある。

 もし、この地域では片手を上げてピヤァっと鳴くことが「気安く話しかけんなこの○○○○野郎!へし折った両手の中指を鼻の穴に突っ込んで目ン玉グルグル言わせんぞ!あと湯漬けが食べたい」的な意味になってしまっていたら、わたしの新しい生活は突然終わりを迎えかねない。

 まぁ流石にこんなシンプルなジェスチャーにここまでの意味無いだろうけど、良くない意味があった場合はやっぱり印象が悪いだろう。それは出来るだけ避けたいところだ。


 ならばどうしたらいい。こういう時、何も分からないことを前面に出しつつ好印象を与える事が求められる時、必要となるキャラクターは何か。

 それは………………無邪気!そう、無邪気さを前面に押し出してそれをアピールすることで、無害かつ保護すべき存在であることを印象付ける!

 さて、無邪気に見せる上で最も重要なことは、ただひとつ。馬鹿になること。

 馬鹿になること……。


「ピ、ピ、ピ……」


 さぁ、わたしよ。

 いざ、馬鹿になれ!!!




 ここから繰り広げられる無邪気アピールからの少女と打ち解けるまでの数十分に至る全力の戯れは、金輪際自分では思い出すことのないように脳の奥深くにまで押し込めることで心の平穏を保つことにするのだった……。






「ふふふっ、もうアルってば。すっごくはしゃいじゃってるのね! もうお姉ちゃんがいないと駄目なんだからー」


ヤメテ! わたしのライフはもうゼロよ!!

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