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漆話 両親の失踪の真相


 「剛真と白奈はなぁ、この支部の幹部やったんやで?ワイと同期でな、よく三人でつるんどったわ」


 あの後、俺と菫さんは亜志麻さんに連れられて、支部長室に向かって歩いていた。

 亜志麻さんが、歩きながら話を続ける。


 「二人とも、凄かったんやで。剛真は【剣聖】、白奈は【舞姫】なんて二つ名で呼ばれとってな?二人とワイ、【独軍】で組んでて、色々やったもんや」


 亜志麻さんは笑いながら話してくれるが、俺からしたら、あの二人が、としか思えない。

 俺には、親父は豪快に笑っている姿、母さんは静かに本を読んでいる姿しか思い浮かばない。

 てか、亜志麻さん、【独軍】てなんですか、【独軍】て。

 どうしたらそんな二つ名がつくんですか、一体?


 (っと、今はそれよりも、だ)

 「それでなぁ~「亜志麻さん」何や?雹君、どないした?」

 「あの、亜志麻さんは俺の両親を知っている。それは分かりました。なら、両親の居場所も知ってるんですか?」


 俺の質問に、亜志麻さんは顔を少し暗くして答えてくれる。


 「…………居場所は、知らん。やけど、二人が失踪した理由は知っとる」

 「そうですか…………あの、二人が失踪した理由って?」

 「………丁度着いたなぁ。この先は中で話したるさかい、はよぉ入りぃ」


 支部長室に入って、亜志麻さんと菫さんと向かいのソファに座ると、早速亜志麻さんが話してくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あれは、二人が失踪する数日前の事や。

 三人で酒を飲んでた時に、報せが来たんや。


 「ほれほれ、もっと飲め、久左!」

 「しつこいの~、剛真。ワイはこの後も一応仕事があるんや。何回も言っとるやろう」

 「そうよ、剛真。それぐらいにしときなさい」

 「なんでぇ。二人ともつれねぇなぁ、って、何だ?」

 「連絡用の鴉か。なんかあったみたいやな」


 その文が、二人が居なくなる切っ掛けやったんや。

 その文には、調査に出た隊が全滅したと書いてあった。


 「久左、なんて書いてあんだ?」

 「例の件の調査に送った調査隊からや。全滅したらしい。こら、久しぶりに厄介なもんかもなぁ」


 実はその数週間前から、二人の支部に所属する怪異が殺される事件があったんや。

 その二つには共通点があってな、ワイも目をつけとった。


 「確か……殺された二人の死体には、共通点があったのよね?」

 「ああ、その通りやで、白奈。二つの遺体は、どちらも全くの無傷やったんや。毒でもなかった」

 「はぁ?んな訳ねぇだろうが。毒でもねぇんなら、傷もつけずにどうやって殺すんだよ」

 「それが分からないから久左は困ってるんじゃない。馬鹿ねぇ」

 「うっせぇやい!余計なお世話だ!」


 ホンマに、白奈の言った通りやった。

 どうやって殺したんか、全く見当がつかへんかった。

 現場を見た奴も居らんくて、手詰まりになっとったんや。


 「で?その文には他になんて書いてあったの?なんか、収穫があったんでしょう」

 「なにっ、そうなのか!」

 「ああ、その通りや。調査隊が命と引き換えに得た情報や。怪異(はんにん)の特徴が書かれとる」

 「ほう、ちょっと寄越せ」

 「あ、待て、コラ!」

 「まあまあ。で、剛真。どういう特徴なの?」

 「あー、体長は1m~2m。色は真っ黒。人型で、眼が赤く光ってるらしい。それと、そいつは手に一振りの刀を持っていたそうだ」

 「刀?なんか、そんな書類があった様な……。ちょっと待っときぃ」


 酒を飲む直前まで仕事してたかんな~。

 その中に刀の紛失に関する書類があったんや。

 この報告と丁度見た書類のお陰で、事件の犯人は直ぐに予想がついた。

 ワイが机の上に書かれていた刀は、極めて強力な妖刀やった。

 妖刀っちゅうんは、妖力、または霊力を込めて作られた刀のことや。

 とある山奥の寺に封印されていたそれが、無くなっていたらしい。

 その妖刀の能力が、また面倒なもんやった。


 「精神を斬る?肉体は斬れない?まさにそれじゃないの」

 「だな。だが、何で刀がひとりでに動いてるんだ?その寺には奪った様な痕跡は無かったんだろう?」

 「それもまたこの妖刀の能力や。封印される以前は、自身の妖力で仮の肉体を作り上げ、行動していたらしいんや。そんな危ないもん、放っとける訳無いしなぁ。それで封印したらしいんや」

 「何で破壊しなかったんだ?その時代だって強い奴が居ただろうに」

 「どうせ、後々利用してやろうとでも思っとったんやろうな。それで全然利用出来ず、途中からは放っといたんやろ。邪念を抱いた報いが今返ってきたんなぁ」

 「馬鹿らしいわね。でも、昔の事より今の事を考えなくちゃ。犯人は分かったけど、この後はどうするの?」

 「これは危険過ぎるかんなぁ。他の奴等には、難しいやろう。ワイ等でやるしかないなぁ」

 「お、やるか?任せろ、俺は何時でも準備万端だぞ!」

 「でも、ちゃんと出来るかしら。ここ数年はずっと休んでたからね」

 「何言ってんだ、あの【舞姫】が。大丈夫だって。今までも三人で全部困難は乗り越えてきただろう?」

 「フフ、ええ。それもそうね」

 「せやな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「ふぅ、一旦休憩にしよか。菫、お茶頼むわ。緑茶で」

 「はい。雹さんは何にしますか?」

 「じゃあ、珈琲を」

 「分かりました、ちょっと待ってて下さいね。直ぐに用意しますから」


 菫さんは、入ってきた時とは別の扉から部屋を出ていった。

 亜志麻さんは、背もたれに寄りかかって、一息ついている。


 ほどなくして、菫さんが戻ってきた。


 「じゃあ、続きからやな。それから数日は何事も無く過ぎた。変化があったのはあの日。君もよく知っとる、二人が失踪した日や」

 「…………両親は、その妖刀にやられたんですか?」


 だとしたら、両親は既に…………。


 「いや、それはちゃう」


 違ったらしい、良かった。

 でも、なら何で居なくなったんだ?


 「あの日、妖刀発見の報せを受けて現場に急行したワイ等は、苦労の末に、破壊に成功したんや」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 三人とも傷だらけになっとったが、妖刀は無事に破壊出来たんや。


 「剛真、大丈夫か?」

 「大丈夫よ、久左。剛真はこれくらいじゃ、へこたれたりしないわ。ねぇ、剛真」

 「あ、ああ、勿論だ!ほら、この通り元気一杯だぜブフォッ!!」

 「何やっとるんや、アホゥ!無理すんやない!白奈もあまりからかうな!」

 「はいはい」

 「ゲフッ、毎度、すまねぇ、ガフォァッ!な、久左」

 「ったく、こいつら………」


 ワイ等は妖刀を破壊した、確かに破壊したんや。

 それで油断していて、そこをつかれたんや。


 「っ!な、なんや!?」

 「ち、ちょっと、あれ見て!?妖刀が………!」

 「な、壊した筈だろ!?」


 急に周りが強い圧力に包まれたんや。

 ワイ等がその出所に目を向けた時、そこには真っ二つになった妖刀が浮かんでたんや。


 「多分、妖刀が破壊されたことで、最後の最後に妖力をぶちまける気なんだわ!」

 「な、そらヤバいで!早く止めな!」

 「でも、どうやってだ!?あんなに強い妖力がぶちまけられたら、何が起こるかわかんねぇぞ!?」


 確かに剛真の言う通りやったんや。

 ここら一帯が更地になるか、何も起こんないか。

 何が起こるか全くの予測不可能やった。

 でも、そんな風に悩んでる内に、どんどん圧力は強まっていったんや。


 「………ねぇ、剛真」

 「あ!?何だ、白奈!」

 「雹の事………任せてもいい?」

 「!!お前……いや、駄目だ」

 「でも、こうするしかないわ」

 「駄目だ、俺も一緒にやる」

 「それこそ駄目よ!あの子はまだ小さいのよ!?一人じゃあ……」

 「大丈夫だよ、雹は俺達の子だ。一人でも強く生きていけるさ」

 「剛真………そうね、私達の子供だものね」

 「ああ、そうだ。俺達の子だ」

 「なら大丈夫ね。安心してやれるわ」


 こん時のワイは、慌てすぎて混乱しとった。

 やから、二人の言葉の意味が直ぐには理解出来んかった。


 「ちょお待ちぃ!お前等、何するつもりや!?」

 「おう、久左。俺達はこの妖力を抑え込む。そうすれば、町に被害は無いだろうしな。俺達はどうなるか分からんが……」

 「な、何言っとるんや、自分!?」

 「久左、貴方は残りなさい。トップが居なくなったら、組織は脆いわ。貴方は居なきゃいけない」

 「待てって言うとるやんか!」

 「じゃあな、久左。元気でやれよ。雹に、息子に宜しく言っといてくれ」

 「じゃあね、久左。生きてたら、また会いましょう」


 二人はそう言って、身体から妖力を溢れだしながら、妖刀に近づいていった。

 二人が妖刀を挟んで向かいあったその瞬間、ワイの視界は真っ白に染まったんや。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「気がついた時には、妖刀の抜け殻だけが転がっていて、二人の姿は消えてたんや」


 そう亜志麻さんが締め括った後、支部長室は沈黙に包まれた。

 そうか、そんな事があったのか…………だから、二人は……………………。


 「………両親は、死んだんでしょうか」

 「せやない。そうワイは信じてるわ。何が起こるか分からんかった、て言うたやろ?もしかしたら、何処か別の場所に転移させられたんかもしれへん」

 「でも、それは………」

 「ワイはあの時の二人の顔を忘れてへん。二人は少しも諦めてへんかった。なら話は簡単や。ワイは二人を信じる。それだけや」


 そう言った亜志麻さんの顔は、無条件に仲間を信じる、漢の顔だった。

 しかし、その顔は直ぐに暗くなった。


 「せやけど、ワイが二人に全て背負わせた事に変わりはない。雹君、許してくれとは言わん。すまんかった………!」

 「亜志麻さん………別に良いですよ、亜志麻さん。こうやって謝ってくれている。それだけで充分です」


 この人はずっと後悔していたんだ。

 両親を信じてくれていた、そんなこの人を、二人が恨む訳が無い。

 なら、俺がこの人を恨むのも筋違いだ。


 (それに、二人が失踪した理由もはっきりした)


 死んだ………かもしれない。

 いや、その可能性の方が高いのだろう。

 だが、亜志麻さんは二人の生存を信じているんだ。

 息子が信じないでどうする。


 (生きてる可能性が零じゃ無いなら、探し続けてやる。待ってろよ)


 俺はもう一度誓いを胸に刻み、強く前を見据えた。



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