伍話 決着
(このままじゃ、ヤバいな)
俺は鬼蜘蛛の攻撃を避けながら考える。
鬼蜘蛛に一撃を与えてから数分、俺と鬼蜘蛛は互いに攻撃しあっていた。
俺は鬼蜘蛛の強力な一撃を避け、鬼蜘蛛は俺に攻められないように攻撃する。
戦闘はそれが繰り返されていたが、それが徐々に傾き始めていた。
俺の攻撃が、鬼蜘蛛に当たり始めてきたのだ。
(だけど…………)
俺は焦っていた。
いくら攻撃が当たろうと、こうも動き続けていたら、こちらが先にバテてしまう。
そうなったら、もうお仕舞いだ。
「じゃあ、アレ、やってみるしかないか!」
俺は鬼蜘蛛の攻撃を後ろに大きく避け、鬼蜘蛛から距離をとる。
これから試すのは、力を手にした瞬間になんとなく分かった方法だ。
初めてだから成功するかどうかは賭けだが、俺が有利な内に終わらせるにはこれしか無い。
俺は右手を前につき出して、呼ぶ。
「こい、«紅之喰»!」
すると、俺の身体から紅い光の粒子が溢れだし、俺の右手に集まり始めた。
光はどんどん集まっていき、一つの形になっていく。
光が完全に一つになった時、俺の右手には一つの武器が握られていた。
それは大きな骨だった。
俺の身長よりも大きく、大刀の形をしている。
骨は紅く、握る部分だけに黒い布が巻かれている。
この武器全体から、強い力を感じとれた。
「これなら………。いくぞ、鬼蜘蛛!!」
俺は紅之喰を両手で強く握りしめ、突然の光に驚いていた鬼蜘蛛に向かって走り出す。
だが、当然鬼蜘蛛も直ぐに俺に対応して、今度は脚ではなくその大きな口で噛みついてきた。
牙も口の大きさに比例して大きく、あれで噛まれればひとたまりもないだろう。
俺はそれに一瞬怯みそうになったが、歯を噛み締めて、そのまま走る。
「ギシャァァッ!!………シャッ?」
鬼蜘蛛は俺を思いっきり噛み砕く。
しかし、鬼蜘蛛は直ぐに違和感に気づく。
感覚が無い、あの肉を断つ、命を奪った感覚が。
何故?何故?何故?死んでない?死んでない?死んでない?なら…………アイツはどこに?
鬼蜘蛛は極度の混乱に陥る。
「こっちだよ!」
その声は、鬼蜘蛛の上から聞こえてきた。
俺は鬼蜘蛛の攻撃が当たる直前で、上に跳んでいたのだ。
まあ、まだ力加減が上手くいかなくて、予想よりも上に跳んでしまったけど。
俺は紅之喰を振りかぶりながら、重力に従って下に落ちていく。
距離はどんどん縮まっていく。
鬼蜘蛛はまだこちらに反応出来ておらず、その背中は隙だらけだ。
「はぁぁぁぁっ!!!」
「ギシャァァァァッ!!?」
俺は勢いにのせて腕を振り下ろした。
紅之喰は鬼蜘蛛の頭から顎まで、一気に切り裂いた。
鬼蜘蛛は甲高い叫び声をあげて、身体をバタバタと動かしていたが、やがて、ピクリとも動かなくなった。
鬼蜘蛛の死骸から紅い光の粒子が溢れだし、俺の身体に吸い込まれる。
「勝った…………」
俺は鬼蜘蛛に勝ち安心したのか、身体の力が一気に抜け、意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(か、勝ちよった……………)
ワイはさっきよりも愕然としていた。
雹君が倒した、鬼蜘蛛を、明らかな強敵を。
(あー、もう、訳分からん。何がどうなっとるんや?雹君はあんなんなっとるし、菫は瀕死の状態やし………って、そうや、菫や!こんな事考えてる場合やあらへん!早く帰って治療してもらわんと!雹君も!)
ワイは意識を失っている菫と雹君を肩に乗せて、支部へと向かった。