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肆話 目覚め


 「ギシャァァァァ…………」


 あれから数分しか経っていない。

 だけど、戦況は明らかに傾いていた。

 鬼蜘蛛は傷一つ負わず、無傷の身体を見せつける様に堂々としている。

 対して私は…………………………。


 「くっ!」


 全身に切り傷をつけ、自らの血で真っ赤になっていた。

 分かってはいたけど、やっぱり鬼蜘蛛は私よりもかなり強い。

 鬼蜘蛛は無傷なのに、私は今にも倒れてしまいそうだ。


 「あっ……!」


 案の定、私は身体を支えられずに、後ろに倒れてしまった。

 痛みを待ち構えていたけど、一向に痛みが来ない。

 眼を開くと、誰かに抱き抱えられてるのだと分かった。

 誰なのか確認しようと顔を見ると、そこには私が守っていた、大切な人が居た。

 良かった、生きてたんだ…………あれ?雹さんって、人間だよね?

 でも、今の姿は…………………。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 意識が戻って、直ぐに身を起こす。

 目の前には、争いとは無縁な俺からしたらかなり凄惨な、思わず目を反らしたくなる光景があった。

 傷一つ無い巨体を堂々と晒している鬼蜘蛛と、それに向かい合う様にして立っている血まみれの菫さん。

 俺が死んでいる間、守ってくれていたのだろう。

 と、菫さんがフラッと後ろに倒れた。

 危ないっ!そう思い駆け寄ると、あっという間に菫さんの傍に移動出来て、無事支える事に成功した。


 「ひ、雹、さん……?い、きて……たの?」


 と、憔悴している菫さんが、俺を見て話してきた。

 そんな怪我で喋ったら危ないだろうに。


 「ああ、生きてるよ、菫さん」

 「良かっ、た……でも、そ、の姿は…いっ、体……………?」


 姿?何か変わっているのだろうか?

 別に、変わってる様には見えないのだが。

 俺が不思議そうな顔をしていたのだろうか。

 菫さんが、教えてくれた。


 「その、髪、と………紅い、角……」


 角!?…………そうか、やっぱり変わってたんだな。

 確認したみると、前髪は真っ白になっていて、多分、髪は全部白くなっているだろう。

 額を触ってみると、確かに、真ん中に一本角があるのが分かった。

 菫さんが言った通りなら、紅い角なんだろう。

 あの空間で力を手にした時に覚悟はしていたが、いざ実際にそうなってみると、人間だった頃が恋しくなってくる。


 あの空間で与えられた力というのは、怪異の一つであろう、鬼の力だった。

 あの空間で力自身が言っていた通りならば、俺は元々鬼の力を持っていて、それが封印されていたらしい。

 あいつは死んでいないと言っていたが、実際には一度死んでいて、封印の効果によって封印していた鬼の力を解放して、鬼として生まれ変わった、という訳だ。

 俺はもう、人間では無くなった。

 恐らく、これからは今みたいな事とどんどん関わっていく事になるだろう。

 だが、それでも。

 俺は死にたくないし、菫さんに死んでほしくはなかった。

 その為なら、いくらでも身を捧げよう。


 「ああ、これはちょっとな。俺、鬼になっちゃったんだよ」

 「…………!?」


 何か言いたそうにしているが、もう声も出せないのだろう。

 俺は菫さんを安心させる様に、笑って言う。


 「ま、ここは俺に任せろ。直ぐに終わらせてやる」


 菫さんは安心してくれたのか、弱々しく微笑んで、気を失った。

 俺は菫さんを、少し離れた辺りに横たえさせる。

 その後、俺はわざわざ攻撃もせずに待っていた、鬼蜘蛛の前に出る。


 「ギシャァァァァ!」

 「よう、待たせたな。それにしても、何で待ってたんだ?それも余裕の表れか?」


 まあ、そりゃあそうだろう。

 言っちゃ悪いが、片や自分に傷一つつけられない満身相違の妖孤、片や先程殺した人間だ。

 見下さない方がおかしい。

 まあ、俺が生き返って、姿が変わったから警戒してるみたいだけど。


 「だけどなぁ、今は力が湧いてるんだ。自分の仇、自分で討たせてもらうぜ!」


 さっき菫さんに駆け寄った時がきっかけになったのだろうか。

 あれから身体を熱い、しかし心地よいものが流れているのを感じるし、身体の内側から力が沸き上がるのが分かる。

 そのせいか、少し気分が高揚していた。


 「はぁぁっ!」


 俺は、全力を出して鬼蜘蛛にとびかかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (ああ、もう!菫の奴、勝手に行動しよってからに!くそ、かなり遅れてしもうたやないか!)


 ワイが雹君からの反応を感じたことを伝えた瞬間、菫は脇目も振らずに支部から駆け出していきおった。

 ワイも直ぐに行こうとしたけど、菫の様子を目にした支部の連中を宥めるのに時間をくってしもた。

 幸い場所は分かってるから、その後、直ぐに向かってる。

 山に入ると、菫ものらしき足跡が直ぐに見つかった。

 裏側に向かっているみたいなので、ワイも直ぐに裏側に移動する。

 せやけど、そこで目にした光景に、ワイは唖然としてもうたんや。


 「………あれは、雹君、なんか?なんや、あの姿。あの子は人間だった筈や。せやけど、あれは何処からどう見ても………」


 鬼、あの特徴を備える生き物を、ワイは他に知らんかった。

 あの時感じた妖気は、気のせいやなかったんか?

 ワイはあまりの衝撃に、助けに入るのも忘れて、雹君と鬼蜘蛛を見ていた………。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は全力鬼蜘蛛に接近する。

 今度も、さっきと同じ様に、あっという間に近づけた。

 しかし、鬼蜘蛛も驚いて反応は遅れたが、俺に向かって脚を振るってくる。

 俺は体勢を低くしてその攻撃を避けて、横に大きく離れる。


 「ふぅー、やっぱり正面からやるのは駄目だったか?」


 なにぶん、戦った事など生涯で一度も無かった為、勝手が分からない。


 「でも、一撃当てたぞ、鬼蜘蛛」

 「ギシャ、ギシャァァァァ!?」


 鬼蜘蛛が、驚いた様に高い声で叫ぶ。

 鬼蜘蛛の脚の一つが、半ばでへし折れていた。

 横に離れた時、最後に一撃くらわしていたのだ。


 (まあ、ここまで強力だとは思ってなかったけど)


 予想外の出来事だが、自分に有利な状況に近づいたので、別に構わない。

 俺は、もう一度鬼蜘蛛に向かって駆け出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 高い叫び声が聴こえ、思考が元に戻る。


 (この際、雹君が何でああなってるのかは二の次や。それよりも、今は菫や。ワイより先にこっちに来た筈やのに、何で雹君戦っとるんや?)


 菫が先に来とったら、雹君を守って戦っとる筈や。

 雹君が正体を隠していたんやとしても、今あんな風に戦っとるんやから、菫は来てへんのか?

 もしくは、既に動けない状況になっている?


 (………ん?あの動きは………)


 鬼蜘蛛と雹君の戦闘を見ていて、ある事に気がつく。


 (何かを庇っとるんか?あの動きだと、庇ってる場所は………っ、菫!)


 雹君が庇ってる場所に、菫が居た。

 ワイは慌てて傍に移動し、菫の状況を確認する。

 菫は、身体中に切り傷を負い、身体中が血で真っ赤に染まっていた。


 「菫っ!?大丈夫なんか!?…………駄目や、落ち着きぃ。こういう時こそ冷静に、や」


 一度深呼吸をしてから、今度は菫の怪我の具合を見る。

 ……………大丈夫や、見た目はかなり酷いが、血は見た目程には出てへん。

 それでもかなりの量やけど、治療すれば死にはせん。

 ワイは直ぐに応急処置をする。


 (せやけど、それならこの血は一体何なんや?こんな量の血、死んでいてもおかしくない。でも、誰も死んで…………)


 応急処置を終えて周りを見渡した時、ここから少し離れた場所に、大量の血痕があるのが目に入った。


 (あれが、この状況となんか関係あるんか………………?)


 亜志麻の胸中では、多くの疑問が渦巻いていた。



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